先日、東京都内で飲食店を営んでいるワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)の会員さんからあるご報告をいただいた。そこには5月以降の様々な取り組みが書かれていたのだが、そのなかにとりわけ関心を引かれたものがあった。それは、感染拡大防止のために店内に置かれた仕切り板だ。
今やみなさんもあちこちで目にするであろう、仕切り板。そのほとんどは無色透明のものだ。その真意は本来なら無い方がよいものであるということで、できるだけ存在しないかのようにしつらえるには、無色透明がよいということになる。しかしこの店のものは違った。仕切り板が黒板なのである。
その仕切り板は、報告書の写真を見ると、カウンターやテーブルの上に並んでおり、隣のお客さんとの仕切り用だが、黒板ゆえ向こう側は見えない。そしてそこに、A4サイズくらいの掲示物が6枚も貼ってある。これについて店主は、「他のお客さんとの仕切りととらえるとあまり楽しくならないこの仕切り板を、LINEのお友達登録につながるように考えて展示しました」と書いており、「この仕切り板は評判もよく、順調に会員数ものびております」とあるので、お客さんにも好評、狙い通りにお友達登録数も伸びているようだ。
私がここで着目した点は2つある。ひとつは、彼が仕切り板ひとつにも、「他のお客さんとの仕切りととらえるとあまり楽しくならない」と考え、ではどうしたら楽しいものにできるだろうかと考え、実行したことだ。そういう意味では、彼には仕切り板が単なる「仕切る板」には見えていない。それもまた、お客さんに楽しく過ごしてもらうための機会であり、装置なのだ。
もうひとつはその仕切り板を、「LINEのお友達登録が増える仕組み」として捉え、ではどうしたらいいかを考え、実行したことだ。ワクワク系では何でも「仕組み化」する。今回で言えば、お客さんが自動的にLINEのお友達登録をしてくれるよう、6枚の掲示物の内容を、読んでもらう順番も含めて考え、設置する。そして狙い通りならお友達登録数は増えるわけだが、今回そうなっているということは、狙い通りに仕組みが稼働していることになる。
ワクワク系では「考えるクセ」をつけ、いつも「いかにお客さんを楽しませるか」を考える。またそれが結果的に顧客増・収益増につながるよう、仕組みも作る。そういう日頃の営みが、今回のようなコロナ禍でも生きている。今回の彼のように、仕切り板が単なる仕切り板に見えない商脳を養うこと。それがコロナの時代を生き抜いていく力となるのである。
小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール
山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。
2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。
「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は、新書・⽂庫化・海外出版含め39冊。
九州⼤学客員教授、⽇本感性⼯学会理事。