日本カナダ商工会議所は10月13日、年次総会および『ハープ演奏と講演の夕べ』と題したイベント(協賛:懇話会、企友会)を開催した。
ハープ演奏は、現在カリフォルニア州で自給自足の生活を営む世界的ジャズハーピスト、古佐小基史(こさこもとし)氏。「心に染み渡るような素晴らしい演奏」と参加者が称賛した。
続いて、在バンクーバー日本国総領事館総領事羽鳥隆氏が講演を行った。タイトルは『日本のとるべき道とカナダの我々』。
ここでは羽鳥総領事の講演内容を要約して紹介する。
待たれる日本での隔離措置の緩和
今、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大で、経済、社会活動、人の移動が制限されていて、日々の活動に大きな制約を受けている。
例えば、現在、日本に行くと14日間の自己隔離があり、日本滞在後カナダに戻ると今度はカナダでさらに14日間の隔離が必要だ。
この状況について羽鳥総領事は「多くの方が不便に感じていて、在バンクーバー総領事館に声が寄せられています。カナダにある他の総領事館も同様で、カナダからの声としてまとめて東京の外務省を通じて、日本の14日間の隔離措置を何とかできないかという要望を伝えてきました」と報告した。
さらに数日前、政府の中で出張や一時帰国など、日本に在留資格のある外国人については、自己隔離について一定の条件を満たすことを前提に条件を緩和することを検討しているというNHKの報道があったことに触れ「早目に緩和が進められたら良いと思っています」と語った。
新型コロナ感染拡大で変化する世界
3月から続いている活動制限により仕事や生活、人生観に変化が起きている。雇用の形態が変わり、デジタル化がさらに進み、新型コロナ後を見据えた新しいビジネスを探すという動きなどもある。
これらは新型コロナが収束しても不可逆な面が多いと考える。それだけではない。国と国の関係も新型コロナで大きな変化が起こっているという。
日本が必要とするのは安定した世界情勢
海外からの資源調達や輸出などを行う日本にとっては外国との関係が大きな意味を持つ。よって、予見性のある、すなわち今後どうなるのかが分かりやすい国際環境が維持されることが重要だ。
その他には、
・自由・人権の尊重、民主主義、法の支配を基礎とする紛争のない国際環境
・経済的には、開放的でルールに基づいた安定した国際経済の維持と発展
が必要との考えを示した。
米中対立、強硬な姿勢の中国など、気になる現在の国際情勢
次に現在の国際情勢についても触れた。
今、最も注目されているのは大統領選挙を迎えるアメリカ、そして新型コロナウイルスの発生源であり、最近対外的に強硬な姿勢を取っている中国だと考える。
アメリカについては、非常に大きな国であり、経済的にも軍事的にも影響力があるので、安定した国際環境や市場原理、自由貿易が維持されるかどうかはその出方に左右される。
トランプ大統領は前の選挙の時からアメリカ第一を掲げていて、貿易についても中国との対立を深めている。
「国際的な役割を果たす人が大統領になり、米国内の状況が安定してほしいと思います。トランプ大統領が再選された場合には、次の選挙のことを意識しなくてもよいことから、余裕を持って国際社会の問題にも取り組んでほしいと考えています」と、大統領選挙への期待を語った。
中国は、アメリカと対立を深めている中、強硬な姿勢を強めている。香港の治安に関する法整備強行、また東シナ海、南シナ海などでは海上に施設を造り既成事実を積み上げようとしている。
「中国はこれまでは経済発展を第一として、安定した国際関係が必要だという基本的な立場をとってきました。最近になって、その流れから少し外れてきているのかもしれないとも思っています。国が大きくなることで、国際問題の扱い方が、言葉は悪いのですが『雑』になっているのではないか、リスクについての計算が細やかにされていないかもしれないと感じています」と懸念を述べた。
その他の国際的課題については、世界各地で行われている内戦、国と国の間で領域をめぐる紛争、治安の問題や紛争による難民発生、北朝鮮の核をはじめとする大量破壊兵器などを挙げた。
アメリカと中国への日本の対応
続いては日本の国としての対応について。
アメリカとの関係は、大統領選挙の結果に関わらず、地域の平和とグローバルな課題について、引き続き緊密に協力していくことを外交の基本とする。
特に日本周辺の最大の不安定要因である朝鮮半島の安全保障面での協力は、日本の存在に関わる不可欠なことで、これを強化して発展させていくことが重要と語った。
中国にも責任ある大国として、地域や国際社会の課題に取り組んでもらう必要がある。地球規模の環境、グローバル経済も中国の対応次第で世界に混乱が生じる可能性がある。サプライチェーンの見直しについても同様だとして、外交努力を続けていく。
米中対立に対する日本の立場と対応
米中の対立については、自由貿易を危機にさらし、世界に大きな不安を投げかけているという。
国際連合のアントニオ・グテーレス事務総長も、去年9月の国連総会での演説で「グレート・フラクチュア=大分断」という言葉を使って、「大きな衝突を懸念している」と危機感を示した。
そのような中で、トランプ大統領は今年6月にTwitterで米中経済関係の完全分離を選択肢に入れていると投稿した。また、9月の記者会見でも、”decoupling” すなわち分離という言葉を使って、分離の検討を始めると述べている。
米中対立により世界が二つに分散され、米ソ冷戦時代のような状況に戻る可能性もあるため、日本もしっかりとした対応が求められる。
グテーレス事務総長の「大きい国は賢くならなければならない、特に2つの大国の知恵が不可欠だ。誰も望まない分断の源になるのではなく、結束した世界の柱となってほしい」という見方に、羽鳥総領事も同意。「米中2つの経済大国、軍事大国には対立ではなく、結束してもらいたいと思います。日本も規模の大きな国ですので責任ある国際社会の一員として、米中のどちらかにつくのではなく、両国を結束させるために力を注ぐべきだと考えています」
さらに「幸いなことに日本は両国と一定の良い関係を維持していることから、その役割を果たせるのではないかと思います。カナダを含む自由と民主主義を共有する国々と、Multi(他国間)またBi(2国間)で連携していく必要があります」と日本の取るべき役割についての考えを語った。
カナダにいる我々に何ができるか
最後に「カナダにいる我々に何ができるのか」だが、羽鳥総領事が3つ挙げた。
まず、セミナー参加者には移民も多いだろうという前提で「移民としてカナダに貢献する」。
次に、「外国人受け入れの経験から学ぶ」。
少子化の日本は、労働力を支えるために外国人の受け入れを増やすという大きな転換を行った。日本人は親切だが、異なる文化をベースとする外国の人と共存していくことには、経験が少ない人が多いと思う。カナダの経験から学ぶことができると語った。
3つ目は、「世界の不安定要因となっている諸問題、および自由貿易体制の維持のために努力する」。
自由、民主主義、自由貿易が大切だという共通の価値観を持つ国と協力していくこと、まさにカナダもそういう国なので、カナダと連携していくことが重要と言う。
バンクーバーでのファーウェイCFO拘束などの問題があるものの、カナダは長年、中国と友好な関係を保ってきた。カナダと協力して米中の対立のない世界を作っていくことも大切との考えだ。
最後に「総領事館としては皆さんの助言をいただきながら、微力ながら日本とカナダの関係発展のための役割を果たしていきたい」と締めくくった。
(取材 西川桂子)
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