リメンバランスデーの11月11日、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバー市のスタンレーパーク内にある日系カナダ人戦没者慰霊碑の前で、追悼式典が行われた。
例年ならば多くの人たちが訪れる会場も、今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で入場が制限され、関係者のみで執り行われた。
一般の人たちは慰霊碑がある会場には入れず、規制線の外から祈りを捧げていた。その代わりにライブストリーミングによる一般公開があり、オンラインによって参加することができた。
式典にはオンラインでの参加も
午前10時30分からの式典は、司会のデビッド・イワアサさんがあいさつしたあと、エミコ・ニューマンさんとジョン・エンドウ・グリーナウェイさんによる勇壮な太鼓の演奏で始まった。
続いて「O Canada」をケイコ・ノリスエさんが独唱し、バンクーバー合同教会デビン・イム牧師が戦没者へ祈りを捧げた。
トランペット吹奏のあと2分間の黙とう。バグパイプによる哀歌が演奏され、再びトランペットが会場に響いた。アイリーン・キタムラさんによる詩の朗読、デビッド・ミツイさんによる戦没者への弔意、冬のような冷たい空気が包む中、人々はその言葉に静かに耳を傾けた。
今年はコロナ禍のため、連邦自由党ヘイディ・フライ議員とジョイス・マレー議員、BC州議会新民主党アン・カング議員がオンラインビデオで参加。そのあとデビッド・ミツイさん、キャシー・エンロスさん、スーザン・ヤマベさんがスピーチした。
最後に、羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事をはじめ20団体の代表が、慰霊碑に花輪を献花し、ケイコ・ノリスエさんが歌う「God Save The Queen」で式典は終了した。
「悲劇的な人種差別を繰り返さないために」デビッド・ミツイさん
式典ではスピーチも行ったデビッド・ミツイさんは、日系一世の祖父を持つ。三世として生活する上での信条、現在と過去の人種差別やナショナリズムについて、さらに若い人たちに伝えたいことなどを聞いた。
デビッドさんの祖父であるマスミ・ミツイさんは日本から移住して来た一世で、志願兵として第一次世界大戦でカナダのために命がけで戦い、選挙権を取得した。
二世の両親は第二次世界大戦が始まると、敵国扱いされ家や財産を没収された上に強制収容所へ送られた。父親のジョージさんは曽祖父の遺品である脇差し(サムライの剣)を、強制移住する直前の1942年にポートコキットラムの農場に埋めた。戦後、農場に戻って脇差しを取り戻し、亡くなる前の2011年にデビッドさんにそれを託した。また祖父が第一次世界大戦の後に授与されたメダルも譲られた。
「それらを所持することは私にとってとても光栄なことで、家族の歴史が自分の中に存在することが分かりました。これらを家族(特に娘のメーガン)だけでなく、他の人たちと分かち合う責任があります。私は日本の祖先のことを大切にしていますが、それと同時にカナダ国民であることを誇りに思っています。このような素晴らしい国は他にはないでしょう。民主主義国家の権利と自由を得るだけでなく、カナダ国民であることに自覚と責任を持つことが重要です」と語った。
2度の世界大戦前後は日系カナダ人が人種差別を受けた時代だった。しかし2020年の今も新型コロナウイルスの影響などで、アジア系市民が差別を受けている。
デビッドさんは「私は中学や高校時代に人種差別を受けた経験があります。例えば当時付き合っていた白人の彼女の親から、差別的な態度や発言を受けました。その経験で私はそれに対処する術と無視することを学びました。私は高校以降、(アイス)ホッケーや野球、バスケットボールなどで活躍して、チームの一員として認められました。他のチームの選手から差別も受けましたが一生懸命プレーすることで、それを克服できたのです」
両親は差別には決して屈せず、デビッドさんと兄を精一杯守ってくれたという。そして何があっても最善を尽くすように教えられた。
現在の状況について「新型コロナウイルスが中国で発生したことで、今のアメリカでは政治にからめて中国系アメリカ人に対する人種差別行為があり、中国系カナダ人にも少なからず影響を与えています。日系カナダ人が標的にされているかは分かりませんが、バンクーバーのような多くのアジア系カナダ人が住む都市でも同様なことはあるでしょう。カナダ社会はアメリカで起こることに対して直接影響を受けますから。”アメリカが風邪を引くと、カナダも鼻水をたらす”ということですね。残念ながら1880年代中ごろも今も人種差別はなくならず、それから免れることはできないでしょう」と述べた。
そして日系四世、五世が誕生している現在、選挙に行って投票する大切さを彼らに伝える必要があるという。「祖父の世代は選挙権を持つ国民になることを証明するために戦場でカナダのために戦いました。ですから選挙権も民主主義も当然のことと考えるべきではありません」
最後に「第一次世界大戦時の一世はもとより、第二次世界大戦や朝鮮戦争時の二世、アフガニスタンで戦った三世たちの犠牲があって今があるのです。時間はかかるかもしれませんが、これまでの悲劇的な人種差別を繰り返さないために若い人たちだけでなく、すべてのカナダの人たちに日系カナダ人の歴史を学ぶ機会を持ってほしいと思います」と語った。
献花団体(敬称略・順不同)
- ◎日系カナダ退役軍人第9部隊
- ◎S-20及び二世在郷軍人会
- ◎日系カナダ人戦争記念委員会
- ◎全カナダ日系人協会
- ◎日系文化センター・博物館
- ◎在バンクーバー日本国総領事館
- ◎グレーターバンクーバー日系市民協会
- ◎国会議員ヘイディ・フライ(バンクーバー・センター選挙区事務所)
- ◎王立カナダ騎馬警察(RCMP)
- ◎バンクーバー市
- ◎バンクーバー市警察
- ◎バンクーバー市公園庁
- ◎バンクーバー日本語学校並びに日系人会館
- ◎隣組
- ◎BC浄土真宗仏教寺院
- ◎日系カナダ人キリスト教教会
- ◎金光教バンクーバー教会
- ◎生長の家バンクーバー
- ◎NAVコーラス
- ◎National Society Daughters of the American Revolution
(取材 古川透)
2020年11月11日のリメンバランスデーの中継動画は、日系文化センター・博物館のユーチューブで現在でも視聴できる。Centenary of the Cenotaph
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