エドサトウ
ガーデニングを生業としている小生は、お陰様で「ゴールデンエイジ」となっても元気に若い人と同じ様に仕事が出来ることは嬉しいことである。
かれこれ十数年前のことであったと思う。老齢なガーデニングが好きな白人のご夫婦のお客様がいた。ご主人は80歳前後で、昔、中国に住んでいたこともあってか家の玄関わきと裏庭に大きな広葉樹が一本ずつあって、秋の初め、まだ夏のグリーンが残っている住宅街の中で、ひときわ大きなその木が黄色に変化してゆく様はとても美しく見えたので写真を撮った事がある。ご主人が「これは、KATURA(桂)だよ!」と日本名を言う。その当時、何故、日本の桂の木がここにあるのか分からず、ただその美しさに感心するばかりであった。
昔、訪れた京都御所の周りにも大きな樹があったことを記憶するが、ひょっとしたら、桂の木もあったのかもしれない。桂離宮という名前の古い建物があるくらいだから。でも本で調べてみると、桂離宮には桂の木の名前は見えないが、ヒサカキというのがある。やはり香木の一種であろう。
この桂離宮の桂は「月の中にあるという高い理想」を表しているという。一説には桂離宮は月を見るための別荘であったらしい。ここから眺める秋の月は格別のようであったようだ。
桂の葉が散り落ちたのをそのままにしておくと、秋の夜、少しばかり甘いような、日本の醤油が発酵したような芳香が漂うという。ある秋の夜、ここの奥さんが庭に出て、この芳香を楽しんでいた。ご主人はいつも早くベッドに入るらしく、その時は、もう眠りについていたという。雨も風も無く、穏やかな秋の夜に桂の葉の下から漂う芳香を楽しんでいると、奥さんの近くにいた小さな室内犬が突然吠え出し、階段を駆け上がり街路に出ようとした。
奥さんも慌てて愛犬を追いかけようとしたのか、階段につまずき、激しく転び、額を強く打撲した上に足を骨折して動けなくなった。
夜9時も過ぎれば誰も歩かない閑静な住宅街、その上、階段の下で倒れているために誰も気がつかない、一晩中、彼女はそこに倒れていたという。まだ、秋の初めで夜間の温度が氷点下にならなかったのがよかったのかもしれない。場合によっては低体温症で死にいたることもあるらしい。彼女は老齢ではあるが体力も、生きる力も強かったのか朝まで耐えられた。朝、ご主人が起きて見てビックリ、妻が外で倒れている。急いで救急車を呼んだという。
病院で足の骨折の手術をして、しばらく入院生活をしていた。小生が仕事に行くと、ご主人が妻の命が助かって安堵したのか、少し笑いながらその話しをしてくれた。庭が好きな女性が起こした珍事である。
最近の事である。古くからの年配の友から、仕事中に電話があり、「イマージャンス(緊急事態)だ!動けないから来てくれ!」と言う。急ぎ、仕事の帰りに寄るとベッドの上で「倒れて立てない。足も動かないから、階下の自分のベッドに運んでくれ」と言う。見れば、顔色は悪いが、熱はない、コロナウイルスの感染症のようでもない。しかし、重たくて彼を下のベッドルームまでは運べない。本人は「ベッドで横になっていれば良い」と言うが、「これは、一晩、入院をして、点滴をしてもらい、検査をすれば歩けるようになるから」と納得をさせて、救急車を呼び、病院へ送る。
翌々日に奥さんに電話で様子を問うと、「彼は、体内で内出血していて、手術をしたが、今は大丈夫だ」と言う。その後、しばらく入院が続いたが、今は歩行器を使い、家の中を歩いている。
最近、日本から送られてきた杉本八郎先生の『認知症予防の最高の教科書』によれば、生活習慣病には、1、バランスの良い食事、2、適度な有酸素運動、3、血圧の管理とベストな体重維持、4、熱中できる趣味や生きがいをもつこと、とあり、中でも認知症予防に重要なのは『有酸素運動』であると言う。であるから、よく歩き血流をよくすることで脳のアセチルコ神経を刺激して脳内部の血管が広がり、血流がよくなることは脳の若返りといえるかもしれない。
歩いて、歩いて、益々脳を若くしましょう!そして、血液をさらさらにするというポリフェノールを多く含むという赤いワインを飲み、友と楽しく談笑をしましょう!第三の人生の花が咲くかもしれません。