第79回「大きな成果を生むための必殺技とは」

 先日、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の園芸店の方から、学びの深いご報告をいただいた。お店の「名物」を作るべく、「焼き芋」の売り伸ばしに取り組んだご報告だ。

 きっかけは新たな焼き芋機を購入したこと。昨年の実績は363本。その実績の3倍は販売したいと、設定した目標は1000本。そしてワクワク系的に取り組んだ今回の結果を先に言うと、目標達成率426%。昨年の約12倍、4267本を売ることができたのだった。

 彼らがまず行ったワクワク系的な工夫は売り場作り。この焼き芋の価値を伝えるべく、焼き芋の売り場にPOP(店頭販促物)を作成。そこには「焼き芋名人機、無理言って買ってもらいました」「サツマイモを厳選して超危険な焼き芋に変身!」「紅はるか、激ウマなんです!」「ぜひ感動してください」などの言葉を散りばめた。そうして焼きながらお客さんに声をかけ、売り始めると、そこそこは売れた。しかし爆発的ではなく、連日売れ残りも出てしまい、毎晩他部署のスタッフに食べてもらう始末。「焼き時間をお知らせした方がよい」「たくさん焼いて待っていれば」などいろいろ改善案も出たが、思うように売れず苦戦を強いられていた。

 そんなとき、ワクワク系的な改善点を見い出した。それは本人曰く、「動機づけをやっているようでやっていない」「お客様の目にとまるような仕組みができていない」という点。そこで例えば、売り場ではなく園の入り口に、「あの危険な紅はるか焼き芋あります。ヤバイっす!」などと書いた大きな看板を設置した。売り場の前に、そもそも焼き芋を売っていることを来店客に知らしめるためだ。他にも同様の改善を加えることで、1日の販売本数はそれまでの最高32本から、85本に増加した。

 そこからは、彼らの改善が勢いに乗った。店内でのお客さんの声にも耳を傾け、同様の工夫を次々と追加。芋も種類を増やし、選べる楽しさを追加。さらには食べた後の、芋の種類別人気投票を行うなど、どんどん改善を進めていった。その結果、前述の4267本を達成したのだった。

 「前年比12倍」という結果だけを聞くと、売り場でのPOPの書き方など、何か必殺技が当たったように思う方は少なくないが、現場において、大きな成果とは、このような細やかな改善の結果として生まれることがほとんどだ。ゆえに、ワクワク系に取り組む各社が鍛えるものは「正しく改善する力」。それが結局は、大きな成果をもたらす必殺技なのである。

 
小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール 

 山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
 
 人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。

 2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。

  「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は、新書・⽂庫化・海外出版含め39冊。

 九州⼤学客員教授、⽇本感性⼯学会理事。