~認知症と二人三脚 ~
ガーリック康子
昨年3月に、世界保健機関(WHO)が新型コロナウィルス感染症の感染拡大によるパンデミック宣言を発表してから、早1年4ヶ月。
当初、ウィルスやその感染力についての詳細がわからず、感染が拡大し、最初に大きく影響を受けたのが、介護施設やサービス付き高齢者向け住宅に生活している高齢者でした。特に介護施設では、施設内の集団感染が広がり、感染により死亡する高齢者の数があっという間に増えていきました。小規模な患者の集団(クラスター)内の感染により、次の感染を生み出すことを防止するために、しばらくの間、家族による面会も制限されていたのは周知の通りです。会えなくなった家族は、介護施設の部屋の外から、窓越しに「面会」することしかできなくなり、施設によってはその選択肢もありませんでした。
次々と介護施設での集団感染が広がるにつれて、そのずさんな管理や、いい加減な介護が明るみに出る施設もありました。そんな状況下で、それまで頻繁に面会に行っていた家族が、介護施設で生活している家族を引き取り、在宅介護を決めるケースが出てきています。コロナ禍の終息後も、介護施設には戻らないことを前提にしている場合もあるようです。
しかし、在宅介護を選ぶにあたり、必要な介護の度合いや、生活環境、介護される人の健康状態を十分考慮した上で決めても、必ずしもすべてが予想通りに行くことは限りません。例えば、認知症を発症している、身体の自由に制限がある、身の回りの世話や移動の際に介助が必要など、実際に在宅で介護してみて、思いのほか介護が大変で、在宅介護が現実的な選択なのかを考え直す必要が出てくる可能性もあります。
この大きな決定で、選択を誤らないよう、例えば、オンタリオ州のオタワ病院では、介護施設やサービス付き高齢者向け住宅から家族を退所させる前に参考にできる、「決定ガイド」を作成しています。(Patient Decision Aid)質問ごとに当てはまる回答を選択し、在宅介護への移行が適当かどうかの判断の材料にすることができます。
在宅介護に移行する際、心配になるのは、介護施設を退所した後のスペースです。通常、退所者が出ると、順番待ちの名簿の上から順番に、ベッドが空いた知らせがあります。退所した後、もう一度、介護施設に入所したい場合は、順番待ちの名簿の一番下に名前が追加されることになります。ただし、新型コロナウィルス感染が終息しない状況下で、一時的に家族を施設から退所させる場合、州により、特例が設けられています。
BC州の場合、同じ施設に戻ることを前提に、基本的に、同じカレンダー年内で最長90日まで、その間の利用料金を支払い続けることで、入所している施設のベッドを保持することができます。(Temporary Absence from Long Term Care)感染拡大で同じ施設のベッドが不足し、保持されていたベッドが必要となった場合は、状況により、そのベッドを提供すると、料金が免除され、優先的に再入所できるようになることもあります。
しかし、介護施設からの退所という選択肢はあっても、すべての家族がその選択肢を選べるわけでありません。小さい子供のいる家族では、子育てに 介護が加われば、介護する側が持ちません。介護者自身も高齢者であれば、「老老介護」になり、あるいは「老老介護」に戻り、介護する側が体調を崩してしまいかねません。家族が離れて暮らしている場合、介護される人か家族のどちらかが、引っ越すことを余儀なくされるでしょう。どの選択肢を選んでも、何がしかの後悔が残り、すべて満足のいく選択肢など、初めからないのかもしれません。
BC州では、7月1日から、新型コロナウィルス感染予防規制が緩和され、日常生活も、少しずつコロナ禍以前の状態に戻り始めています。しかし、しばらくは、マスクと手指洗浄剤が手放せそうにありません 。
参考:
‘During the COVID-19 pandemic, should I go to live elsewhere or stay in my retirement/assisted living home?’
The Ottawa Hospital
https://decisionaid.ohri.ca/docs/das/COVID-MoveFromRetirementHome.pdf
Temporary Absence from Long Term Care
Ministry of Health – Overview of Visitors in Long-Term Care and Seniors’ Assisted Living
http://www.bccdc.ca/Health-Info-Site/Documents/Visitors_Long-Term_Care_Seniors_Assisted_Living.pdf
‘The Canadian long-term care dilemma – where are we headed?’
Global News
https://globalnews.ca/news/7978875/canada-long-term-care-future/amp/
*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。