~認知症と二人三脚 ~
ガーリック康子
暑い、暑い、ああ暑い。
外の気温が、体温より高いなんて…。
2021年6月末。BC州は大きな熱波に見舞われ、記録的な猛暑。BC州の多くの地域で、州の過去最高気温が塗り替えられ、27日のバンクーバーの最高気温は41℃を記録。州内のリットンで、カナダの過去最高気温(49.6℃)が記録されたのも、この時期です。
この暑さのせいで、熱中症や熱疲労で体調を崩す人が続出。救急車はフル稼働で、911にダイヤルしてから救急車が到着するまで時間がかかり、救急車が間に合わずに亡くなったケースもあったようです。
BC Coroners Serviceのデータによると、6月25日から7月1日の一週間の死亡者数は、815名(7月26日現在)。このうちの半数以上の571名が、6月28日から6月30日の3日間に亡くなっています。これは、過去5年間の同じ一週間の平均死亡者数198名の4倍以上にあたります。この同じ一週間の間に、猛暑による暑さの影響による疾患で死亡した人の数は、445名と報告されています。亡くなった方の大半が一人暮らしの高齢者で、その多くが、温度が上昇した、十分な換気のされていない室内で発見されています。同じくBC Coroners Serviceのデータでは、6月20日から6月29日に暑さが原因で亡くなった方569名のうち、60歳以上の死亡者が512名を占めています。
このような気候の中、介護される人ではなく、介護する人が暑さのせいで死亡するケースも少なからずありました。この件で、CBCのラジオ放送で、ブリティッシュ・コロンビア大学看護学部の准教授がインタビューを受けていました。教授は、地域で介護者と同居する認知症患者の調査を行っており、調査に協力している家族からの連絡で、先の猛暑の際、自宅で心臓発作を起こしたため、何度も救急車を呼んだものの、その到着が間に合わず、自宅で亡くなった介護者がいたことを知りました。同居していた認知症患者には熱中症の症状があり入院。しかし、介護をしていた人が亡くなっているため、退院後、自宅で元の生活に戻る可能性はほとんどなくなります。
介護者は、猛暑でいくら暑くても休むことはできません。いつも通り、認知症の人の身の回りの世話や食事の準備など、生活全般で介護をしなくてはなりません。多くの場合、介護者自身も高齢で持病があり、熱中症で倒れる、あるいは亡くなるリスクはかなり高くなります。認知症患者だけでなく、障害のある子供や医療的ケア児を介護している親にも同じことが言えます。介護する親は高齢でなくても、猛暑という状況下では、いつもの介護に加えて、子供によっては、体温調整のための冷湿布を頻繁に変えたり、小型のエアコンで室内気温を保ったりと、1日24時間、親の休む暇はありません。特別な状況で、体調を崩したり亡くなったりするのは圧倒的に高齢者が多いことがニュースで取り沙汰されますが、介護を必要とする青年や子供たち、そして、介護を休むことができない親たちにも、同じようなリスクがあります。
死亡者数の増加に拍車をかけたと考えられる原因のひとつに、BC州の住宅事情が挙げられます。夏も比較的過ごしやすいBC州では、もともと多くの住宅にエアコンがありません。(全体の半分以上ともいわれています。)暑さを凌ぐ場所として、地域のコミュニティーセンターや図書館などが「クーリング・センター」に指定されていますが、足腰が弱って移動に支障があり、ひとりでは「クーリング・センター」に行くことができない場合や、せっかくの「クーリング・センター」があることさえ知らない場合もあります。
また、猛暑による死亡者の多くを、一人暮らしの高齢者が占めている背景には、新型コロナウイルス感染症の大流行により、ソーシャルディスタンスを保つために人と関わる機会が減り、一人暮らしの高齢者と社会との繋がりが希薄になったこともあると考えられています。同居する家族がいれば、水分補給を促したり、涼しく過ごせるようにサポートしてくれます。加齢により、喉の渇きを感じる「口渇中枢」が減退している高齢者は、実際よりも喉の渇きを感じにくいため、身体が渇いていることを自覚しにくく、脱水症状を起こしやすくなります。気を配ってくれる人が周りにいなければ、重篤化しかねません。
高齢のご家族やお友達、孤立していませんか?
*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。