外から見る日本語
やっと国内旅行は行けるようになったが、海外旅行となるとまだいろいろ大変である。日本に行きたいけど、簡単に行けず困っている友人や生徒もたくさんおり、口から愚痴の一つも飛び出す。「口も濁れば愚痴になる」、こんな日本行きのことを考えていたら、日本語上級者の質問を思い出した。「行きます」の否定形は「行きません」と習いましたが、「行かないです」もよく聞きます。この二つはどんな違いがありますか、である。
確かに、日本語教育では「行きます」の否定形は「行きません」であり、「行かないです」は教えていない。しかし、日本ではだいぶ前から若い人に限らず多くの人がこの表現を使っており、テレビドラマなどでもよく登場している。
これは古くからの「です・ます」の文法上の大きな「変化・ゆれ」である。原則として、名詞に「です」、形容詞と動詞は「ます」が決まりだった。名詞は「学生です」であり、形容詞の「おいしい」や「楽しい」などの丁寧表現は「おいしゅうございます」や「楽しゅうございます」と言っていたとのこと。はるか昔、子どものときに聞いた記憶あり。
しかし、この表現は言いにくいし、馴染めないと当時の若者は感じたのであろう。そこで形容詞にも「です」を付ける簡単な言い方、「おいしいです」や「暑いです」などがどんどん広まり、1952年(昭和27年)の国語審議会で、簡素な表現として認められたのである。それゆえ、歴史もそんなに古くなく、年配の人の中には、これらの表現に幼稚な印象を持つ人もまだ多いのでは。
日本語教育でも当然「おいしいです」や「暑いです」を教えている。さらに、否定形の「暑くありません」よりは「暑くないです」のほうが主に使われており、こちらを導入している。この「~ないです」の広まりは、本来「ます」を付ける動詞にまで影響を与えて、特に否定形の「行きません」を「行かないです」、「食べません」を「食べないです」など、こんな言い方が広まってきたのであろう。まさに「言葉は時代とともに」であり、日本語教育でも、そろそろ両方教えたほうがよろしいかも。
この「行きません」と「行かないです」の違い、我々日本人は個人差や言い方にもよるが、確かに何となく違いを感じる。強い決意などを示す場合は「二度と行きません」になり、軽くおどけた雰囲気の場面では、「行かないです」のほうがぴったり。こんな感じで使い分けている人が多いのでは…。 その上級者には、目上の人などにはやはり正式な「行きません」を使うほうがいいが、カジュアルな場面では「行かないです」でも大丈夫。この傾向はさらにエスカレートしそうで、日本語教師として、いつか「行くです」や「食べるです」を教える日が来るです、と思わず彼と笑ってしまった。
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