YWCAの日本語アウトリーチワーカーの加瀬広海さんに聞く4
在バンクーバー日本国総領事館が2017年に開設した「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」を担当しているYWCAの日本語アウトリーチワーカーの加瀬広海さん。
YWCAで勤務を始める前にも Vancouver and Lower Mainland Multicultural Family Support Services Society(VLMFSS)マルチカルチュラル・ソサエティで日本人女性のサポートをしてきた。シリーズ最終回として被害例やどういったことに注意したらいいか聞いた。
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– パートナーからの暴力についてですが、日本人の被害者は虐待を受けている自覚がなかったケースもあると聞きました。
最近、DV という言葉が浸透しだして、パートナーからの虐待被害者であることを日本人も受け入れやすくなってきたと感じています。それでも虐待というと「ボコボコ」にされるというイメージがあって、 自分はそんなことされていない、自分のケースは違うと思っている方もいまだ多くいらっしゃいます。
でも、「それって日本で言うモラハラでしょう?」と言うと、「そうです」と同意されます。そこで、「モラハラは DV なんですよ、精神的、心理的な嫌がらせ、虐待になるんですよ」と説明して、DVの被害に遭っていることを自覚してもらいます。
別居・離婚後にチャイルドサポート(養育費)を払わない、同居中でも子ども関連の手当は父親に入る、経済的に自立させないなど、金銭面での嫌がらせは経済的な虐待です。
– そういう場合とかも介入していただけるのでしょうか。
はい、一人で悩まずに相談してください。
BC州の家族法が2012年に、続いて、カナダ連邦政府の離婚法がBC 州の家族法に合わせるような形で今年の3月に改正されました。
「abuse」は身体的なものだけではないとして、詳しく記載されるようになりました。法律上、モラハラ、経済的な嫌がらせも全て「abuse」になっています。
– ボーイフレンドができて一緒に食事をしてお支払いする段階になって、財布を忘れたとか言って、カナダ人男性に「たかられた」日本人女性の話を聞いたことがあります。
かなり前のことですが、日本人女性が数人、そういった被害を受けました。今でもこの詐欺師はよくダウンタウンの図書館とかスタバといった日本人ワーホリの子がいそうなところに「網を張って」待っているらしいです。
「何やってるの?」「日本人ですか?」と日本人女性に声をかける。ワーホリで来た人たちは仕事を探している人が多いので「仕事探している」と答える。
男が「どんな仕事がしたいの?」「僕はそういう仕事にコネクションがある。紹介しましょうか」などというので、女性は「紹介してください」と頼む。こうして話が進みます。
女性も初めて会った時は警戒しますが、通っている学校の話とか、多少でも、個人情報を明かしてしまうと、男はその学校のそばに偶然のふりをして出没します。何度か会っているうちに、もう見ず知らずの人ではなくなり、親しい間柄になります。
そのうち、一緒に食事に行ったりします。最初はちゃんと支払いをしてくれます。お金を借りたりもするのですが、最初のうちは借りたお金も返す。何度かそういうことがあった後、「僕のクレジットカードがなぜか使えない。代わりに君のカードで払ってくれないかな?」と女の子にお金を出させて、お金を返さないとか、「ちょっとお金貸してくれない?」とATMに入って、暗証番号を盗み見る。
気がついたときには、かなりの金額を搾取されています。
女性にアドバイスしたいのは、自分の直観(ガットフィーリング)を信じることです。おかしいな、と感じたらその気持ちに従って用心してください。相手が日本人で同じような条件だったら付き合わないような人でも、英語を話すから、人種が違うからというだけで付き合ってしまうのも考えものです。文化の違いで片付けないようにしてください。
DVやその他の犯罪を犯す人間は、どこの国にもどの職業にもいます。
– 日本人女性の場合、移民という立場から分からないことも多く、カナダ人男性に頼ってしまって、DVの被害に遭いやすいと聞きます。
出会ったころは言葉の問題もあり、日本人女性も男性の言われるとおりにせざる得ないことが多いようです。でも子どもができたら、譲れないこと、譲らないことも増えてきます。その上、英語力もついきて反論する、そして衝突する。
その衝突がただの口喧嘩ではなく、身体的な暴力に繋がることもあります。
中には「彼は私を大切にしてくれる」、「私のためにいろいろやってくれる」って言う人もいます。私はそんな時には、「あなたが何かして欲しい時に本当にやってくれますか」と聞いてみます。彼がやりたいことをやっているだけで、あなたが助けて欲しいときに助けてくれたり、あなたがして欲しいことをやってくれますか。
たとえば、彼が「今日は外食しよう」と言ったとします。でも子どもがいるのでレストランで食事をするのも周りに迷惑をかけるし、外食代やベビーシッター代もばかにならないので、「今夜は家で食事をしましょう」と言うと、彼は怒り出したり、自分の意見を強引に押し通そうとする。そんなことはありませんか。
あなたが自分の意見を言った時に彼がちゃんと聞いてくれますか。意見を取り入れてくれますか。同じことをするのでも彼が提案するのならいいけれど、あなたが提案すると聞き入れてくれない場合は要注意です。
あと、彼と一緒になった当初の自分と、今の自分を比べてみて、「自分に自信がなくなってしまった」、「自信がないから自分で判断を下すことができなくなってしまった」ということはありませんか。
彼が頻繁にあなたの英語を批判するので、コーヒーすらオーダーするのが怖くなってしまっていませんか。そんな風になっていたら、だんだん洗脳・コントロールされていっている恐れがあります。
- DVもさまざまなケースがあるので、一人で悩んでいないで、「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」もあります。まずは相談してください。
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「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」は、在バンクーバー日本国総領事館がYWCAに業務委嘱していて、BC州とユーコン準州に住む日本国籍を有する女性を対象に、無料での相談、関係機関(裁判所、警察、弁護士事務所、法的支援機関、病院、生活保護など)への同行、諸手続きの支援、通訳を受けることができる。
ホットライン:604-209-1808(月~金 午前9時~午後5時、祝祭日を除く)
(取材 西川桂子)
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