~グランマのひとりごと~
ねぇ、このカーペット、ぺトぺトだねぇ。サンフランシスコから訪ねてきた娘が、家に入った途端に言った。
ダイニングルームのカーペットが濡れていた。続けて、今度台所へ行くと冷蔵庫の下に水が溜まっている。
「わぁー、大変、出水だわぁー!」。それが昨年の11月11日だった。今は2022年1月。お正月も過ぎ、あれ以来の天井を開けての大工事はまだ終わらない。理由は配管工事ではなく、工事ついでに依頼した改装工事で、部品がcovid-19で工場閉鎖の為、入手出来ないものがあるからだ。
しょうがない、家中ひっくり返っているから、毎日、出来る事は読書とファイル整理だ。ファイル整理中に素晴らしい手紙がどんどん見つかる。読めば読むほど「良い友達を持てた幸せ」。それは「天」への感謝にまでなって行く。有難い。今、又大好きな友達からの手紙、何度も読み返している。こんな事が書いてあった。
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澄子様
ご丁寧なメールありがとうございました。
メールから澄子さんがLunch Partyを楽しんでくださった事が凄く嬉しかったです。澄子さんが喜び、私が喜び、お互いに楽しいキャチボールが出来ました。言葉で話さなくても人と人の心は笑い、幸せを共有出来ましたね。
実は昨日のランチに皆さん幸せそう生きている様にみえますが、Judyの旦那様は脳にガンが出来て生命の保証のない毎日を過ごしてます。私のもう一人の友人は澄子さんと同じく難聴の病で、難聴をストップする強い薬を飲んでいるので、骨が弱くなり軽い物も持てなくなりました。
人生は生と死から成り立ってます、人は生きて行く中でどうしても避けられない分かれ道が待ってます。その時が勝負と私は考えてます。難病や死に直面した時、人はどんなチョイスをするかです。
必ずチョイスがあるのです。笑って生きるか? 泣いて生きる? 開き直って生きるか? 私達にはチョイスがあります。
パラリンピックでたくさんの選手は生き生きと挑戦してます。私は今年7月で70歳! 夫マイケルは81歳! 何時もマイケルが言ってる事は「俺はいつ死んでもおかしくない歳だ! だから出来るだけ思う存分にやりたい事をする」。
本当に頑張ってます。
会社経営、美術館、グレスリーベア ファンデーション、その他たくさんの事に挑戦しています。マイケルが健康だからやるのでなく、健康問題があってこそやる気が出てくるようです。
人は自分の為に生きると弱くなりますが、人の為、社会の為と生きていくと強くなります。
日本の戦後の母親は強かった。夫が戦死して子供数人を一人で育てあげました、あの気力は子供の為に出た力です。
澄子さん難聴老女なんて思わないでください。澄子さんはおしゃれです。初めてお会いした時、インテリジェントな都会で生きてきた人に思いました。自分が老女と思えば確かに老女になってしまいます。反対に私は「澄子」叔母さんでもなく、おばあちゃんでもない、何時も「澄子」です、と思って頂きたいです。
私は何時も〇〇良子で生きていきます。
勿論(もちろん)家族から「叔母さん」とか言われますが、心の中は叔母さんでな」「〇〇良子」です。
毎日の生活の中で自分が集中できる事があると幸せになります。
私は今庭仕事に熱中してます。
アイビーを引き抜くので指が太くなりました、犬のジンベイとリンドウが私が泥だらけになっている側で横になって寝ています。
誰とも話さず、土とアイビーとの格闘が時間を忘れさせる幸せにひたってます。澄子さん、勝負を恐れずに楽しく挑戦してください。
幸せは自分で感じるもの、誰か言ってましたよね。
良子。🐕…🐕..🌿🌿
グランマはこの手紙、何度も読み返し、難聴者には難聴者の生き方がある。パラリンピックの選手たちって素晴らしい。
サンフランシスコ バレエで踊る孫、シルク・ド・ソレイユで でんぐり返しをやっていた孫、写真が送られてくるだけでも嬉しい。グランマの温室の花達と話しながら過ごす日々、目眩、眩暈(めまい)も、難聴も、坐骨神経痛も、なんのその。
でも、早く家の工事終わってくれないかなぁ。幸せは自分で感じるものだものねぇ。
許 澄子