地元の人に愛されたカフェのオーナー、清水なおみさんの物語 1

人種、民族の壁をこえて

 「資金もない、外国人であるわたしは地元での信用もない、英語もできない…」、当時「ないないづくし」だったという清水なおみさん(以下、なおみさん)が、ニューウエストミンスターにカフェ、Naomi’s Cafeをオープンしたのは1971年のこと。

 それから25年間、おいしい料理と居心地のよい空間を提供することで、カフェは行列のできる人気店となる。建物の老朽化で閉店してからはバンクーバースクールボードなどで料理を教えてきた。90歳の誕生日を迎えた2022年1月に、主婦の友社から「ナオミのカフェ NAOMI’S CAFE in Vancouver」を出版した。

 なおみさんにZoomで話を聞いた。2回に分けて紹介する。前半はカナダに来ることになった、そしてカフェをオープンすることになった経緯について。

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2022年1月に90歳の誕生日を迎えた清水なおみさん。Photo courtesy of Naomi Shimizu
2022年1月に90歳の誕生日を迎えた清水なおみさん。Photo courtesy of Naomi Shimizu

– なおみさんがカナダに来たのは1958年、26歳のときのことでした。60年以上前でインターネットもなく、日本の家族や友だちとは簡単に連絡できない時代です。たいへんな勇気や覚悟が必要だったのではないでしょうか?

 カナダ日系2世のジョージ(清水ジョージ昭三さん)と1958年1月に結婚して、11月に横浜港からバンクーバーに向かいました。

 一足先に海を渡ったジョージが待つカナダには、船で来ました。横浜からバンクーバーまで14日間もかかりました。たった一人で生まれて初めての船旅でした。何より一番つらかったのは親と別れることでした。

 列車で大阪駅から横浜に行き、横浜港から船に乗ったのですが、大阪駅まで見送りに来ていた母が、私の乗った列車が動き出すと、ホームを走って追いかけてきました。駅員さんに「危ない」と止められていた姿が今も忘れられません。

 もうこれで最後、会えないかもしれないと思い、京都駅までずっと泣いていました。

– 本にはジョージさんの家族は戦前、日本食品店、清水商店を営んでいたものの、戦争で強制移動となり、太平洋戦争が終わって解放されてから日本に帰国したとありました。ジョージさんは大阪の連合国軍総司令部(GHQ)で働いていて、なおみさんを見初めたそうですね。

 一目ぼれだったそうです。でも、そんな話はしてくれず、何十年もしてから、テレビでインタビューされたときに、話しているのを聞いて、「えっ、そうだったの?」と初めて知りました。

– ご家族は日系カナダ人との結婚についてどんな反応を?

 猛反対でした。だから日本で結婚しましたが、教会で二人だけで式を挙げました。でも私がパパ、ママと呼んでいたジョージの両親は結婚をとても喜んでくれました。

– 到着したときのバンクーバーの印象を教えてください。

 大阪から来た私には淋しい田舎町と感じました。到着したのは11月で天気が悪かったこともあり、よく泣いていました。

 カナダに来た当時はアジア人として差別を受けることもありました。英語もまったくできなかったので、仕事もなく、ボウル1杯85セントのえびの殻むき、レストランのお皿洗い、カナダ人の家の掃除など、そんなことをしながら生計を立てるしか生きていく術はなかったのです。(「ナオミのカフェ」より)


– 差別を受けることもある生活でしたが、料理が好きななおみさんは、自分のお店を出したいと思うようになったということですね。


 お店をしたいと思ったのは、ジョージから勧められたこともあります。清水家は日本食品店を経営していた商売人の家で、親を見ていたので、成功するのには商売をするのがいいと言われました。

 でも、商品を仕入れて、それを売ってお金儲けをするのではなく、自分が作った料理でみんなに喜んでもらいたいと思っていました。料理が好きでしたから。

 カナダで手に入らない日本の食べ物を料理の本を見て研究して、何度も失敗を繰り返して納得のいく味を出せるようになるまで練習しました。それを家族や友達が「おいしい」と喜んで食べてくれるのが楽しくて、自分の店を持って、たくさんの人に料理を作りたいと夢を持つようになりました。

 夢だけは大きくえがいていたものの、現実は厳しいものでした。資金もない、外国人であるわたしは地元での信用もない、英語もできない…。「ないないづくし」でした。レストラン開店のために資金を融資してくれる銀行を探して何軒も尋ねてまわりました。(「ナオミのカフェ」より)

後半(2)へ続く。

ナオミのカフェ NAOMI’S CAFE in Vancouver
清水なおみ著
主婦の友社
ISBN 4074511975

 なおみさんからカフェの想い出を聞き、その人柄に魅かれた、原京子さん、八木智子さん、伊藤裕司さんは「ほかの人たちにもこの話を伝えたい」とブログとして発信していた。さらにその内容を本にして、もっと多くの人たちに知ってもらいたいと奔走。なおみさんが90歳の誕生日を迎えた2022年1月に出版した。

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