失敗を恐れず挑戦し続けることの大切さ
「資金もない、外国人であるわたしは地元での信用もない、英語もできない…」、当時「ないないづくし」だったという清水なおみさん(以下、なおみさん)が、ニューウエストミンスターにカフェ、Naomi’s Cafeをオープンしたのは1971年のこと。
それから25年間、おいしい料理と居心地のよい空間で、カフェは人気店となる。建物の老朽化で閉店してからは、なおみさんはバンクーバースクールボードなどで料理を教えてきた。90歳の誕生日を迎えた2022年1月に、主婦の友社から「ナオミのカフェ NAOMI’S CAFE in Vancouver」を出版した。
なおみさんにZoomで話を聞いた。2回に分けて紹介する。カナダに来てカフェをオープンするまでの前半に続き、後半ではカフェのオープンと閉店。その後、料理のインストラクターになった経緯など。
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レストラン開店のための融資もなかなか受けることができなかったなおみさんの前に救世主が現れる。
「OK、融資しましょう。担保はナオミ、あなた自身です。あなたの人柄を信用して融資します」と、5000ドルを貸してくれることになったのです。(略)
築96年の古い建物にあるレストランを譲り受け、夢に描いていた「わたしのレストラン」をスタートすることになりました。(「ナオミのカフェ」より)
しかし、夢を実現したなおみさんにピンチが訪れる。隣にあった大きな新聞社が移転した。社員がランチを食べに来て忙しかったが、閑古鳥が鳴く状態に。そんな状況を打開するため、なおみさんは店で出す食べ物を全て手作りにすることを思いつく。
– 毎日、ホールウィートブレッド(全粒粉パン)、レーズンブレッド、チーズブレッド、ライブレッドの4種類のパンを自分で焼いたと本にはあります。当時、カナダに来たばかりの日本人のなおみさんが、4種類ものパンを焼こうと考えたということに驚きました。
お客様のアドバイスです。お客様にいろいろ教えてもらいました。これが食べたいと言われると、そのリクエストに応えたい、喜んでほしいと思い、がんばりました。
お金がなかったので、パンもすべて私が手でこねて作りました。機械を使わないので大変でしたが、おいしいと言ってもらえるのがうれしくて。
こうしたなおみさんのさまざまな努力が実り、カフェは行列のできる人気店になる。たくさんの人と出会い、訪れる客との絆が生まれ、生涯の友人となっていった。本では常連客とのやりとりなど、数々の心温まるエピソードも紹介している。
– 常連客が子どもを連れてきてくれるのがうれしかったともありますね。
常連客夫婦に子どもが生まれると、病院から帰る途中でカフェに立ち寄り、生まれたての赤ちゃんを見せてくれたこともありました。その後も家族で食べに来てくれたので、成長を見守らせてもらいました。
夫のジョージが倒れて、セントポール・ホスピタルで入院していた2011年のことです。エレベーターを待っていると、「Naomi!」と声をかける人がいました。カフェで食事をしてくれたそうで「ハンバーガーが最高だった。あんなおいしいハンバーガーは、もうどこでも食べることができない」と言ってくれました。
しかし、カフェが入っていた建物が取り壊されることになり、1996年に閉店する。その後、インストラクターの資格を取り、バンクーバースクールボードや日系文化センター・博物館、そのほかの団体などで料理を教えた。
– 現在、世界は不安定で、今後どうなるのかと不安に感じている人も多いと思います。一人でやってきたカナダで、夢だったカフェをオープンするなど、困難を乗り越えてきたなおみさんから、そういう人たちにアドバイスなどあれば。
特に若い人に言いたいのは、「悩みは成長のこやし」であるということです。たくさん悩む人ほど成長しますし、悩まない人は成長しません。
人生は悩みの連続で、それを乗り越えて人間は成長していきます。失敗を恐れず、挑戦し続けてください。
ナオミのカフェ NAOMI’S CAFE in Vancouver
清水なおみ著
主婦の友社
ISBN 4074511975
なおみさんからカフェの想い出を聞き、その人柄に魅かれた、原京子さん、八木智子さん、伊藤裕司さんは「ほかの人たちにもこの話を伝えたい」とブログとして発信していた。さらにその内容を本にして、もっと多くの人たちに知ってもらいたいと奔走。なおみさんが90歳の誕生日を迎えた2022年1月に出版した。
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