外から見る日本語
四月も下旬、春盛り。こんなひどいご時世でも、春はちゃんと来てくれ、いろいろな花も咲きほころび、四季の移ろいに大いに元気づけられている。そんな折、質問好きな日本語上級者からメールが入った。「先生、エッセイを読みました。湯上りに着物を着て、ビールではなく、日本酒が飲みたいです」、こんな前書きがあり、やはり質問が続いた。「着物」と「和服」の違いは何ですか…である。うーん、日本人はあまり気にしたこともないが、確かに両方使っているので、上級者は気になるのであろう。
日本語教師になってから、同じような質問を何度か受けている。この「着物と和服」や「日本食と和食」などの「違い」である。でも、なぜ同じような意味の言葉が二つもあるのか、我々日本人にとっても、確かにややこしい。
日本語教師としては何とか説明しなければ、そこで先ず、「和服」や「和食」などの成り立ちを調べてみた。これらは幕末から明治初期に作られた言葉とのこと。文明開化とともに、西洋からいろいろな物が入ってきた。そこで新しい言葉を作らなければならない。例えば、西洋人が着ている服だから「洋服」という言葉を作り、それに対応して、日本人が着ている服を、「和」という漢字を使って、「和服」を作ったとのこと。なるほど。
でも、古くから「着物」という言葉があるので、「和服」など必要なく、また「洋食」に対する「和食」も「日本食」という言葉があるから、わざわざ「和服」や「和食」など、作る必要はなかったのでは・・・と、日本語教師として、生徒からこんなややこしい質問を受けるたびに、思い悩んでしまった。
しかし、明治初期、西洋に追いつくには、「洋風・和風」などの「洋」と「和」の対比、さらに「和」の良さを言葉として、強くアピールすることが重要だったであろうことは容易に想像できる。でも「洋酒・和酒」の「和酒」に関しては、言いにくさもあり、「日本酒」という言葉があるからであろう、ほとんど使われず、「日本酒」との違いなどの質問もなく、ホッとしている。
さて、「着物」と「和服」だが、こんな経緯があり、基本的には同義語。でも明治以降、衣食住の文化も大きく変わり、言葉にも変化がみられる。この着物と和服の「使い分け」は、地域差や個人の考えも大きく影響して、なかなか興味深い。
世代でも異なるが、こんな考えを持つ人が多い。着物は、「どう、この着物、似合う ?」などの軽い、話し言葉として、一方、和服はニュース記事、「今年の入学式には和服姿が目立った」などの書き言葉で、少し重い感じ。なるほど。 俳句にも興味がある彼には、こんな句を一緒に作りながら、「違い」など気にすることないよ、とやんわり諭した。「春盛り 着物と和服 お揃いで」
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