歌声が4年ぶりに披露された。混声合唱団さくらシンガーズが、5月15日(日)午後、ニューウェストミンスター市のアンビル・センター・シアターでコンサートを開催した。
当初、創立50周年記念コンサートが2020年に予定されていた。しかし、新型コロナウイルスの規制で延期。その間の2021年10月、同合唱団の創立者であるルース鈴木先生が逝去。
コロナ規制が緩んだ今年、2年遅れの50周年記念コンサートは、同時に鈴木先生をしのぶコンサートになった。前編と後編の2回に分けてリポートする。
久しぶりのコンサート
コンサート会場に入ると、あいさつを交わす人々、手を振り合う人々の姿。マスクを付けた顔、付けない顔が並んで席に着く。
午後2時開演。プログラムを読んでいた目が、一斉に会場前方のステージへと移る。指揮者の中堀忠一さん、ピアノ伴奏の早借星良(はやかし せいら)さん、団員25人にゲスト出演のルース鈴木先生の孫3人が加わり、合計30人が順番に登壇。
冒頭、ソプラノの王由利さんが、さくらシンガーズを代表してあいさつを述べた。その中で、「鈴木先生は今日のコンサートを待つことなく他界されましたが、先生の魂はきっと私たちと一緒に今日この会場に来てくれているはずです」と語った。
歴史ある日系合唱団の歌声
2020年に開催予定であったコンサートの曲目は、音楽監督であったルース鈴木先生が中心になりすでに選んであった。それらの曲を今回のコンサートで継続して歌うことにした。その後、鈴木先生の孫3人の出演が決まったので、楽曲を追加。進行を再編成した。
プログラム前半は、混声合唱のための童謡メドレー「いつの日か」でスタート。「しゃぼん玉」「揺籃(ゆりかご)のうた*」「叱られて」など日本の童謡9曲。続いて女性合唱で、歌曲集「愛する歌」より、「犬が自分のしっぽをみて歌う歌」「雪の街」「ユレル」「ひばり」の4曲。ステージから流れる集中力こもった歌声に、会場は一曲ごとに引き込まれていく。
休憩のあと、このコンサートでの特別企画、故ルース鈴木先生の生前の活躍を振り返るビデオとスライドショーが、ステージ中央にスクリーンを設けて上映された。
ビデオは、鈴木先生が主演したオペラ「真間手児奈(ままのてこな)」からの抜粋。堂々として歌う鈴木先生の姿に目を凝らし、厚みある歌唱に聴き入る。
スライドショーは、「鈴木先生と歩んだ50年」。さくらシンガーズの初期から今日までの鈴木先生と団員の写真が年代順に紹介された。半世紀にわたり音楽活動を通して、バンクーバー日系コミュニティの一翼を担ってきた鈴木先生の貢献を印象づけるものであった。
ピアノ伴奏の早借星良さんによるリスト「愛の夢No.3」の独奏に続き、鈴木先生の孫、鈴木タイシャさん、ゼイナンさん、ゲンデンさんの3人による歌のパフォーマンスが行われた。タイシャさんは中国の民謡、オペラ歌手ゼイナンさんは、プッチーニのオペラとシューベルトの作品から、ゲンデンさんも加わり3人で「未来へ」を日本語で歌い、鈴木先生をしのぶのにふさわしい時間となった。
この後、ステージは鈴木ファミリー3人も加わった混声合唱に戻り、「春に」「さくら」「群青」など6曲を披露。各曲の構成とイメージの表現に、ソプラノ、アルト、テナー、ベース、それぞれパートの持ち味を十分に生かし、カナダの日系合唱団で最も歴史あるさくらシンガーズの本領を発揮した。
アンコールは、「千の風になって」。もうこの世にはいない人からのメッセージである歌詞がメロディーに乗り会場内に流れ、このコンサートの歌い収めにふさわしいものであった。
*編集部注)「ゆりかごのうた」の表記は、作詞した北原白秋の原題(揺籃のうた)に従った。
後編に続く
(取材 高橋 文)
訂正:さくらシンガーズ「ルース鈴木先生 メモリアルコンサート」開催日は正しくは15日でした。お詫びして訂正いたします。
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