第90回「弊社にも本当に来ました」

 私が常々お伝えしていることの中に、「ワクワク系は科学である」、ひいては「商売とは科学である」がある。そのゆえんは、私が情報学の博士号を取得しており、その研究がワクワク系の背景にあることもあるが、何より「再現性がある」ことが科学たるところだ。そこで今回はそれを物語る事例をご紹介したい。ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、ある会社からいただいたご報告だ。

 同社はテイッシュ・トイレットペーパー・おむつなどの衛生用紙、印刷用紙・特殊紙の卸売り業。取り扱い商品のなかには他社でも購入できるものが多く、いきおい価格競争になりがちな業種でもある。そんな同社でワクワク系にまい進するのは同社の後継者でもある三代目。彼から最近いただいた報告書はこう始まる。「ワクワク系マーケティング実践会に入会し早7カ月。入会してDVDを見て『とりあえずなんかやる』という言葉に後押しされ、勢いでニューズレターを千通出したことが懐かしいです」そしてしばらく読み進むとこういうくだりがある。「毎月の会報誌を読んでいるとお客様から手紙が来たと書いてあり、すごいなあと思っていたのですが」。

 ここにある「お客様から手紙が来た」というのは、お客さんからいただくファンレターのようなもののことだ。当会にはそういうものをお客さんからいただくお店や会社が多く、その事例が当会の会報誌に頻繁に載るのである。そこで彼が「すごいなあ」という背景には、自社が卸売り業ということがある。取引先は法人であり、しかも先に述べたようなビジネス環境。一般の方がお客さんのレストランなどならファンレターが来ることも分かるが自分の会社には…、そう思うのも無理はない。しかしこの報告書はこう続いていた。「弊社にも本当に来ました」。

 さらに彼は言う。「ビックリしたのは商品を購入いただいたのは我々なのに、このような直筆のお手紙が来たことです。まさか弊社にもハガキが来るとは。社内は盛り上がり、本当にこんな事が起こるのだと、ワクワク系マーケティングの再現性を実感しました。(弊社でこんなことが起きるのは初めてです)」

 商売には再現性がある。ある結果――例えばここで言う「お客さんからファンレターが届く」――を得たければ、その結果を生み出す原因となることを行えばよく、行いさえすれば同じ結果が出る。たとえ、自分の業界、仕事上では起こりえないと思うようなことでもだ。誰もお湯を沸かすのに、「自分には沸かせないだろう」とは思わない。実は商売も同じなのである。


小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール 

 山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
 
 人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。

 2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。 

 「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は最新刊『「顧客消滅」時代のマーケティング』をはじめ、新書・⽂庫化・海外出版含め40冊。

 九州⼤学非常勤講師、⽇本感性⼯学会理事。