外から見る日本語
先日、久しぶりに生徒たちとリアル飲み会を行なった。やはり、ワイワイがやがやしゃべりながらの飲み食いはとても愉快。大いに楽しい雰囲気を堪能したが、ここでこの「堪能」が話題になった。これは日本語教師になってからときどき話題になる言葉である。
確かに、この「堪能」には異なる二つの意味があるので、我々日本人でも少々紛らわしい。この語源を調べるとかなり複雑だが、それなりに興味深い。先ず、一つ目は、「足る」を名詞化した「足んぬ」が音の変化で、江戸時代に「たんの」になり、さらに「たんのう」と変化して、満ち足りる意味として使うようになったとのこと。
さらに、この「たんのう」の漢字として、「堪能」を当て字として採用したようである。えー、びっくり。でも、なぜこの漢字「堪能」を当て字にしたのか、日本語教師としては文句の一つも言いたくなる。でもそんなこと気にもせず、ちゃんと「母の手作り料理を堪能した」などと使っている。
二つ目は「英語が堪能です」などで、学問など深くその道に優れているという意味。でもこの場合、正式な読み方は「かんのう」とのこと。えー、またびっくり。でも、確かに言われてみれば、堪忍は「かんにん」なので、「堪」は「かん」のほうが馴染あり。事実、辞書には最初に「かんのう」が載っており、昭和初期の文豪も「かんのう」として使っている。ごもっとも。
しかし現在では、ほとんどの人が「たんのう」と発音している。これはいつごろかはっきり分からないが、誤読で「たんのう」と読んでしまい、それがどんどん広まり、定着したようである。なるほど。その原因として、一つ目の「たんのう」の当て字をこの「堪能」にしたことも大きな影響があると思えてならない。
同じ漢字を意味によって、読み方を変えるなどは分かりにくく、「英語が堪能です」も「たんのう」と読むほうが分かりやすい。本来の読み方とは異なるが広く定着しており、この「たんのう」は慣用読みとして、立派に認められている。至極当然。
このように「堪能」は語源的に大変複雑な言葉だが、こんなこと日本人はほとんど気にしない。でも日本語教師としては大変である。もちろん、細かなことには触れないが、この「堪能」には、動詞の「堪能する」と形容詞「堪能な人」のように、異なる二つの使い方がありますよと、生徒に意識させなければならない。
日本語会話が堪能になれば、日本の文化や風習も大いに堪能できますよ。 こんな感じて教えている。いと厄介だが、いと楽し。
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