「人に会うのが仕事ですからね。色んな人に会って話を聞くのはたのしいですよね」と笑顔を見せたのは、在カナダ日本国大使館山野内勘二特命全権大使。5月3日にオタワに着任して以降、精力的にカナダ各地を巡っている。
6月26、27日にはブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーを訪問。26日に在バンクーバー日本国総領事館で話を聞いた。
前編は日系コミュニティ、日本・世界にとってのカナダ、ウクライナ情勢について。
日系コミュニティの中に多様性があるのがすばらしい
カナダ各地の日系コミュニティの中でもバンクーバーは、長くカナダに在留している邦人、カナダ国籍の日系カナダ人、学生や駐在など短期滞在者らが、うまくコミュニティを作り上げていることに、「多様性が日系コミュニティの中にあるのはすばらしいと思いますね」と語った。
第二次世界大戦が終わり、「日本人であることや日本的なものの意味合いが辛い時代もあったと思いますが、77年たって先輩たちのものすごい努力で日系コミュニティとして団結してここまでやってこられたことが、いまのカナダ社会で日本の立場が尊敬される理由だろうと思います」
この日はアレキサンダー通りにあるバンクーバー日本語学校にも立ち寄り、そこで説教をしていたフィジー出身の牧師さんに参加するよう誘われたという。まさしく「インクルーシブ」と笑う。バンクーバーの日系社会はこれから日系という枠に収まらず、日本を、日本文化を愛する人たちとともに「ますます進化を遂げていくんだろうなという感じがしています」と言って、「バンクーバーに着いて6時間くらいで偉そうなことは言えないけど」と笑った。
日本・世界にとってのカナダの役割
日本とカナダは多方面で互いに「補完できる」関係と見ている。「色々な協力ができる、ものすごい潜在力に満ちた国だと思いますね」と言う。その中の一つがエネルギー。天然資源大国カナダには、天然資源を輸入に依存する日本も注目している。
ロシアによるウクライナ侵攻で、「カントリーリスクが低い国、あるいは政治的にもっと近しい国から輸入する方が、将来的な安定供給につながる」という考え方によると、「カナダには俄然光が当たっていると思いますね」。
いま世界では3つの「F」の重要性が叫ばれているという。Food(食料)、Fuel(燃料)、Fertilizer(肥料)。日本だけでなく、「カナダが世界に果たす役割や期待はすごく大きくなっていると思います」と語った。
そして、エネルギーや気候変動という分野ではロシアのウクライナ侵攻前からその実力が注目されていたカナダ。日本とも「協力や関係は深くなっていくと思います」と先を見据えた。
ウクライナ支援から見る日加関係
ウクライナ支援でG7(先進7カ国)の一員として結束体制を守り、国際社会全体で対処しなければならないときに、「G7の議論をリードしていく国が2つあるとしたらカナダとアメリカです」と説明する。
カナダにとってウクライナ問題は他人事ではないと見ている。カナダ外交全般に言えることだが、移民で成り立っているため、ウクライナ政策となったときにはウクライナ系移民の国内世論が政策にかなり影響を与える。「そういう意味でカナダのウクライナ政策は、G7の中でも、とりわけアウトスタンディングな部分があって、全体の議論もリードして影響を与えたと思います。日本としてはそういう議論をしっかりと見ていきたい」
一方、日本の政策は、対ロシアでは北方領土交渉や、天然ガスを輸入しているなど日ロ2国間の関係で制約がある中で、「対ロ制裁であれ、ウクライナ支援であれ、国際情勢の動きであれ、G7の一体化をしっかり守るために岸田総理がリーダーシップを発揮して、相当誇れるものがあると思います」。
カナダもそういう日本の動きや政策を注視し、評価していると語る。こうしたウクライナへの外交努力は、ウクライナを支援するだけではなく「日本がカナダからエネルギーや食料、肥料などの協力を求めるときにつながってくる」との見方を示した。
後編は、カナダのメアリー・サイモン総督への信任状捧呈時のエピソードや、カナダ全国を網羅する日系団体創設、趣味の音楽について紹介する。
山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身
(取材 三島直美)
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