著書:
ルース・コールズ(日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会 会長)、
スコットモンクリーフ・知保里(ロバート新見日系ホーム20周年記念プロジェクト・コーディネーター)
翻訳:並木 真理子
「さあ、みなさん! 椅子を使って腕立て伏せをしましょう。12回やってみましょう。準備はいいですか? では始めましょう。 1、 2、 3…」
エクササイズ・インストラクター、ひろみさんの元気な声が廊下に響き、参加入居者は、長年使ってきた手足を動かし、ストレッチしています。 サロンルームでは、毎週美容を楽しむ入居者もいます。 そして4階の部屋は、ボランティアと毎週のおしゃべりを楽しむシニアの皆さんの笑顔と笑い声があふれています。
私達は皆、尊厳と誇りをもって、そして自立して健康に長生きすることを目指しています。 しかし、年月が経つにつれ、長いこと使ってきた体にも不具合が生じ始め、自信や笑顔は失われていきます。 今まで出来ていたことがもうできないという現実を受け入れるのは、とてもつらいことです。 知らない人ばかりで、食べ慣れない食事や不慣れな言葉の所に移ることを想像してみてください。
日系カナダ人のニーズに応えるサービスやプログラムを提供すること、日系カナダ人のシニアの口にあう食事が出て、話が通じ、日系コミュニティとのつながりを維持できるホームを作ることは、日系コミュニティにとって長年の優先事項でした。孤立した日系カナダ人シニアのニーズに応えるケアホームの建設構想が持ち上がった時から今日まで、日系カナダ人コミュニティの多くの人々がその夢の実現に向けて献身的に取り組んできました。
その構想実現への道のりは、1973年のジャパニーズ・カナディアン・ソサエティ(Japanese Canadian Society)設立に始まり、これが単身の日系カナダ人の住宅ニーズに応じた、パウエルストリートの「さくら荘」完成へとつながりました。多くの単身日系カナダ人シニアが、簡易な調理設備を備えたワンルームに住むことができるようになった一方で、地域の介護施設で孤立する日系シニアへの懸念や、彼らの文化に配慮した施設の必要性が浮き彫りになりました。
1981年、特別委員会が設立され、1984年には公聴会が開かれ、関心のある人々が集められました。 その2年後、ジャパニーズ・カナディアン・ヘルスケア・ソサエティ(Japanese Canadian Healthcare Society)が慈善団体として法人化されました。
カナダ政府の日系カナダ人に対する戦後補償(リドレス合意)で土地の購入が可能になり日系プレースが具体化すると、まず1998年にシニアの集合住宅・新さくら荘が建設され、2001年にはジャパニーズ・カナディアン・ソサエティ(Japanese Canadian Society)とジャパニーズ・カナディアン・ヘルスケア・ソサエティ(Japanese Canadian Healthcare Society)が合併し、「日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会」となりました。 そして、BCハウジングおよびフレーザーヘルス保健局からの資金援助と、日系カナダ人コミュニティからの多大なご寄付により、2002年9月13日に59室の介護付きシニア住宅、日系ホームが実現したのです。高齢者介護の指針として「敬愛、尊厳、自立、選択、プライバシー」が採用されました。
日系ホームの開所以来、私達日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会は、当ホームの入居者や、住み慣れた我が家で過ごしたいと願う軽・中等度の認知症の方々の生活の質を向上する方法をずっと模索してきました。2013年、高齢者のためのNew Horizonsプログラムとバンクーバー財団の資金援助により、認知症にやさしいアウトリーチプログラム「いきいきプログラム」「食動楽プログラム」「健やかクリニック」が始まりました。 2018年には、日系ホームに5室と健康ラウンジが増設され、24年以上にわたり日系ホームの設立と運営に貢献したロバート新見氏の功績を称え、「ロバート新見日系ホーム」と改称しました。
今日、日系ホームでは、ビンゴ、生け花、アートテーブルなどたくさんのアクティビティが毎週開催され、多くの入居者が参加し、日々の生活を充実させています。 また、コロナ禍での面会制限の間もテクノロジーのおかげで、入居者はZoomで自分の大切な人とつながることができ、せめてもの救いとなっています。
今年の9月13日に、「健康で長生き」(生活を楽しみ、笑い、美しく老いる)をビジョンとする日系ホームは20周年を迎えます。この特別な日を記念し、9月17日に日系プレース・イベントホールで、ゲストをお招きしてお祝いします。日系カナダ人コミュニティのメンバーが団結し、他の人々に変化をもたらすことができたことを考えると、この日は、日系コミュニティ全体を称える日でもあります。そして、過去から今に続き、これからも引き継がれていくであろうコミュニティ精神、粘り強さ、愛情、思いやり、ボランティア精神に感謝し、心に留める日でもあります。
日系ホームがまだアイディアの段階だった頃を思い返すと、長い道のりでしたが、私達の挑戦に終わりはありません。今、私達は「日系カナダ人コミュニティにおける高齢者介護の未来はどうあるべきか」と自問します。シニアのための在宅支援プログラムをもっと作ることでしょうか?「自宅でできる」運動プログラムや交流に参加することを通して、シニア同士がバーチャルにつながるプログラムをさらに展開することでしょうか?現在のレジデンスの拡大や、現行サービスがニーズに合わなくなった時の複合型ケアレジデンスの開発でしょうか?
これらのニーズ全てが取り組むべきものであり、私達は引き続き将来の可能性を追求する道のりを歩んでいきます。
(寄稿 日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会)
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