第93回「1種類だけを強調したら」

 10種類も同種の商品がある中、1種類だけを強調したら他の商品の売上はどうなるか――今回は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員の、あるお茶販売店での取り組みをご紹介しよう。

 同社は茶葉の栽培から店頭や通販での販売までを一貫で手掛ける会社。今回社長が送ってくれた実践報告は、店頭販売しているお茶の中の5種×2パターン(グラム数の違い)、計10種類の販売についてのものだ。

 今回強調した「1種類」とは、5種の中の上から2番目に高価なお茶。店頭にはすべてのお茶が並んでいるが、そこに大きなPOP(店頭販促物)を貼った。そこには「お茶人生46年で最高のお茶になりました!!」とのキャッチコピーに続いて、今年のお茶がどれほど最高のものになったのか、なぜそうなったのかなどが丁寧に綴られており、最後に「どのお茶も美味しいのですが、特に〇〇(商品名。上から2番目のお茶)に全てが詰まっています」と、その商品1つだけに的を絞り、強力に訴求した。

 そうした結果、どうなっただろうか?上から2番目に高価とは言え、その商品を強力に訴求したのだから、それが一番伸びただろうか?その他の商品は?

 彼からの報告書には、昨年と今年を対比して、10種それぞれの商品の販売数量と伸び率が記されていたが、そこには実に興味深い結果が現れていた。

 まずはどの商品が伸びたかだが、結果としてはすべての商品が伸びた。中でも最も伸び率が高かったのは、強調した上から2番目の商品ではなく、さらにその上の、最上級の商品だった。その伸び率は全商品中唯一の200%超え。他の商品も、軒並み120%から180%の伸び率だった。

 もっとも、販売数量は上から5番目の商品が毎年最も多く、今回もそうだった。普段使いの商品だからだ。それでもその商品の伸び率も120%を超え、大きく伸びた。単価が圧倒的に高い最上級品の大きな伸びも含め、全体として売上は大きく伸びたのだった。

 1種類の価値を強調することにより、連れて他の商品の価値も上がり、全体として売上が伸びる。今回のケースはそれだ。2番目がそれほど美味しいならばその上はさらに美味しいに違いないと、この機に最上級品を試す方もいれば、ならばと普段使いをいつもより多めに買う人もいただろう。いつも頭に置くべきことは、「価値をちゃんと伝える」ことにより人の心が動き、行動が変わり、その結果売上が上がる、その事実なのである。

小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール 

山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
 
人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。

2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。 

「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は最新刊『「顧客消滅」時代のマーケティング』をはじめ、新書・⽂庫化・海外出版含め40冊。

九州⼤学非常勤講師、⽇本感性⼯学会理事。