オンタリオ州トロント市で9月18日まで開催のトロント国際映画祭(TIFF)で作品「Broker」(邦題:ベイビー・ブローカー)が上映された是枝裕和監督。初回の9月13日には、主演のソン・ガンホさんと現地レッドカーペットにも登場。メディア陣の取材を受け、ファンとの記念撮影などにも応じた。
作品は、クリーニング店を営みながら裏では「赤ちゃんポスト」に預けられた子を売るブローカーの男とその仲間、「赤ちゃんポスト」に自分の息子を預けた女が、共に養父母(つまりは買い手)を探す旅路を描く。途中児童養護施設の少年を交えた一行が他人でありながら次第に心の繋がりを築いてゆく様子を、彼らを追う刑事や暴力団などの周辺人物とのストーリーも絡め、是枝監督ならではの温かい目線で描く。
ブローカー役に「パラサイト 半地下の家族」のソン・ガンホとカン・ドンウォン、母親役をIU(イ・ジウン)が演じている。この作品で主演のソン・ガンホは5月に行われたカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞している。
是枝監督はレッドカーペットで新報を含むメディア陣からの取材に応じた。
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―家族とは何か、を問う映画が続いていますが?
基本的には自分がおもしろいと思う映画を作っている。家族がテーマとなる作品が多いのは、自分にとって今『家族』についていろいろ考え発見することがおもしろいからなんだと思う。
―今回の作品は是枝監督自身が日本や韓国の「赤ちゃんポスト」の状況を知り長年温めてきた企画だと聞きました。
2016年にニセ神父のソン・ガンホさんが優しそうな顔で赤ちゃんを抱きあげ「幸せになろうな」と話して売り飛ばしてしまう。それが最初に思いついたシーンだった。そこからこの映画が始まった。
―映画を観た人にどのようなメッセージを伝えたいですか?
登場人物たちがそうであるように、ウソン(作中に登場する赤ん坊の名前)がどうしたら一番幸せになれるのか、ウソンの幸せを皆にも考えてもらえるといいな、と考えている。
―今回韓国語という環境で制作されたわけですが、難しいと感じたことはありましたか?
映画制作というのは日本語のみの環境であっても難しいことがたくさんある。今回は韓国語という環境だったが、もちろん通訳さんなどの助けがあったおかげだが、作り終わった今とくに大きな困難はなかったと感じている。良い作品を作ろう、言葉を超えて理解し合おう、という思いがあれば言葉は超えられると自信になった。
―今世界でもとても勢いのある韓国映画のスタッフと仕事をしてみた感想はいかがでしたか?
スタッフは皆若く生き生きと活気がありとても良かった。韓国では働く人間にとっての労働環境もきちんと守られている。学んで日本に持ち帰り改善しなければと思うところがたくさんあった。
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「韓国で映画を作るという以上にソン・ガンホと仕事がしたいと思っていた」と話した是枝監督。ソン・ガンホさんも「是枝監督と共に作品を作れて大変光栄に感じている。監督はコミュニケーションを取ることをとても大切にしていたのと、韓国と日本で共感のできる心情も多く言葉の壁は全く感じなかった」と応え、「是枝監督は人物、ストーリー、そして街の風景や車にいたるまでとてもていねいに描いているので、観る人には全てを楽しんでいただきたい」と話した。
「ベイビー・ブローカー」は9月29日に開幕のバンクーバー国際映画祭(VIFF)ではクロージング作品に選出されている。カンヌ、トロントと世界の映画祭で話題になった同作をバンクーバーでも楽しむチャンスをお見逃しなく。
(取材 Michiru Miyai)
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