外から見る日本語
日本語教師 矢野修三
いつまで続くコロナパンデミック、なかなか終息の気配が見えてこない。バンクーバーはマスクなどの規制は無くなったが、何となく落ち着かない日々が続いている。そんな折、久しぶりに上級者二人と、コロナ前によく行った喫茶店で、ミーティングを行なった。
先ず、無事を祝ってコーヒーで乾杯、そして開口一番S君からこんな質問が飛び出した。「なぜ正方形なんですか、どうして正四角形と言わないのですか」である。えー、長年の教師生活で、こんな質問を受けたのは初めて。びっくりしてしまった。
そこで、先ず彼に、どうしてこのような質問を思いついたのか、聞いてみた。彼いわく、コロナでリモートワークが続き、家にいる時間が長いので、千羽鶴など前から興味があった日本文化の折り紙を始めたとのこと。説明書の中に「正方形である折り紙の折り方」などと「正方形」という単語がよく出てきた。でも意味が分からず、調べたら「正四角形」だと分かり、質問したくなりました、である。うーん。
我々日本人はこんなこと考えもしない。この「正方形」は子供のときから学校で学んでおり、とても慣れ親しい単語。でも改めて、なぜ正方形というのか、と聞かれると戸惑ってしまった。日本語教育では三角形や四角形は教えるが、確かに「正方形」は数学に興味のある生徒以外はあまり習わないので、彼の質問もうなずける。
早速、長方形のメモ用紙を折って、正方形の折り紙を作り、「方形」の説明である。「方形」とは四角形であり、辺の長さと角度が、正しく(まさしく・ただしく)同じ「方形」を「正方形」。もちろん三角形の場合は正三角形なので、正四角形でもいいのであろうが、やはり日本人とすれば馴染みがなく、「正方形」でなければ落ち着かない。
こんな「方形」の話をしていたら、思わず「方丈記」について話したくなった。もちろん二人とも「方丈記」など知らなかったが、上級者なので、話しのついでにちょこっと。
これはおよそ800年前に書かれたエッセイ。「丈」は昔の長さの単位で約3m。一丈四方形の小さな方丈の小屋の中で書いたから「方丈記」と作者が名付けた、と説明した。英語に訳すと、二人は相談しながら「Essay written in a small hut」はどうですか、なるほどね。そして、こんな話題を日本人にするとみんな驚くよ、と付け加えた。
さらにまた、彼から今度は質問ではなく、問題を浴びせられた。ちょこっと笑いを浮かべながら、「国旗は普通、長方形ですが、正方形の国旗、先生、ご存知ですか」である。正方形の国旗などあるはずないよ、と答えると、正解は「スイス国旗」とのこと。えー、びっくり。早速グーグルで調べると、確かにスイスの国旗は正方形。うーん、この歳になるまで全く存じず、恥ずかしい限り。
一本取られた感じだが、折り紙から国旗までいろいろな話題に花が咲き、大いに盛り上がった。久しぶりに日本語をしゃべり、為になる話もお聞きでき、とても勉強になりました、と感謝の意。うーん、あっぱれな日本語、折り紙付きの上級者である。
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