外から見る日本語
日本語教師 矢野修三
ついこの間、新年の挨拶をしたと思いきや、早や師走のお出まし。「いよいよ年の瀬も迫りました」や「良いお年をお迎えください」など、またこのような挨拶をかわす時期になってしまった。正に、「光陰矢のごとし」を痛感している。
この時期になると、生徒からの懐かしい、でもちょこっと困った質問を思い出す。「年の瀬」についてである。どうして年末を「年の瀬」というのか、なぜ「瀬」という漢字を使うのかなど、最初に質問を受けたときはびっくり、教師として、こんなこと考えたこともなかったので、焦ってしまった。
でも、確かになぜ「瀬」なのか、我々日本人はほとんど気にしたことないが、語源は「川の瀬」である。「瀬」は川の浅い所だが、急流で危なく、無事に川を渡れるか、気になる場所。
これについては江戸時代の一般庶民の暮らしぶりを理解すれば分かりやすい。当時はお金を後でまとめて支払う、ツケ払いが広まっていたようで、年末にそのツケをきちんと清算して新しい年を迎える。でも、落語でお馴染みの貧乏長屋などではお金の工面がままならず、無事にお正月が迎えられるか、気になる時期。
そこで年末を「川の瀬」にたとえて、「年の瀬」と呼ぶようになったとのこと。なるほど。想像もつかなかったが、なかなか味のある表現。確かに、「瀬」は百人一首にも出てくるので、この「年の瀬」という言葉に「年末」とは何か違う思いを感じる日本人は多いと思う。
生徒には細かなことは省いて、「川の瀬」は流れの速い所で、年末は忙しく、人の流れが速いので、「年の瀬」という言葉ができたが、意味は「年末」とほぼ同じ、と説明している。でもこれを英語に訳すのは難しく、「the end of the year」では、物足りないですね、などという上級者もいて、うれしくなり、じっくり説明したくなる。
また、「良い年」は「よい年」か「いい年」か、どちらが新年の挨拶にふさわしいですか、などもよく質問される。教師にとって、この「良い」という形容詞は教えるのに一苦労。「良い」の読み方は「よい」だか、会話などでは「よいです」ではなくて「いいです」のほうが自然。さらに、「いいです」の否定形は、「さむい」は「さむくない」なので、生徒は「いくない」と思ってしまう。しかし「いくないです」はよくないので、「よくないです」と教えなければならない。
一般的には「よい」は書き言葉で、フォーマル。「いい」は話し言葉でカジュアルな感じであり、ビジネス関連の得意先や上司などには改まった、漢字の「良いお年」を使い、友達などには気軽にひらがな書きの「いいお年」がいいかもね。御意!
バンクーバー新報、ご愛読の皆さま、
「いいお年」ではなくて、「良いお年」をお迎えください。
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