第3回 インドへの旅 プッタパルティ

セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

 こうでなければだめ、ああでなければ嫌だと思って、始まる苦悩、こうなったら嬉しい、ああなったら楽しい、有難いと思って実現する数々の不思議、そして、訪れる奇跡。

 南インドのプッタパルティ、サイババの住むところを目指して、日本を出発した75歳のお婆ぁちゃんと私。2人は飛行機に乗り、マニラ経由で、その日にシンガポール到着。そこで1泊。翌日、まずマダラス(現在名はチェンナイ)へ行くのだ。早朝、ホテルの薄暗い手洗口の棚に、いきなり自分の下唇を思い切りぶつけ、私の口の中も外も血だらけ、その痛い事!その時から南国の食べる物がピリピリ辛くて、傷が痛む。情けない!

 兎に角、シンガポールから空路順調にマダラスへ到着。予約したホテルでプッタパルティへの行き方を尋ねる。そして、係員はまずバンガロールへ行き、そこからタクシーでプッタパルティへ行けと言った。しかし、飛行機は週1便だけと言う。結局、マダラスから列車で4時間、バンガロール(現在、インドのシリコンバレーと言われる街)へ行き、そこから、タクシーでさらに又4時間かけてプッタパルティへ行けるという。と言うわけで、ホテルからクリーに荷物を駅まで運んでもらい、列車に乗った。荷物の移動は近くにいるインドの人が、誰でも気軽に手伝ってくれた。特に75歳のお婆ぁちゃんがいるので、皆、親切だった。列車内で知り合ったカップルは、バンガロールで兄弟が旅行社をやっていると言い、タクシー予約もしてくれた。すっかり見ず知らずの周りの人達に世話になった。ああ、お婆ぁちゃんと一緒に来れてよかったぁ。
 バンガロールからプッタパルティへのタクシー4時間も思ったより楽だった。
 運転手の休憩時は、チャイが飲める所へ行くのだ。本当に美味しいチャイ茶を数回飲んだ。ただ気になったのは、タクシーが止まると乞食が寄ってくる。私達がお金を上げると運転手が、乞食から煙草を1本貰うのだ。驚いた。

 プッタパルティのアッシュラムに到着したのは夜の8時45分だった。事務所は9時に閉まる。つまり事務所閉所ぎりぎりの時間に飛び込んだのだ。ここで私達は個室をもらえた。普通は広い体育館のような所に、各自が自分で入手した寝具を持ち込み、知らない人達と同室に一緒に寝るのだ。だから個室がもらえるなんて「ラッキー」と飛び上がる思いだった。しかし、行きついたその部屋のベッドを見ると、きっと長い間全く使われなかった部屋なのだ。それは酷い埃だった。

 とてもそのベッドに寝ることはできない。仕方がない、2人でマットレスをべッドから床におろし、下に敷かれた板を丁寧に拭き、そこへ寝ることにした。日本から持って来た、私の寝具は大きなタオルケットと袋になった布団カバーだ。お婆ぁちゃんは何も持っていなかったから、私のタオルケットをあげ使ってもらう。私は袋になった薄い布団カバーの中に入って、衣類を纏めて枕にし、寝ることにした。硬いベッドだが、それでも疲れた体に心地よい。長ーい、よい旅だった。
 しかし、未だ、顎と唇の傷は痛む。

許 澄子
2016年からバンクーバー新報紙でコラム「老婆のひとりごと」を執筆。2020年7月から2022年12月まで、当サイトで「グランマのひとりごと」として、コラムを継続。2023年1月より「『セレンディピティ』幸運をつかむ」を執筆中。
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