エドサトウ
カナは、中学生最後の陸上クラブの活動に頑張っていたが、一つ悩みがあった。担任の先生から自分自身が希望している高校の受験は無理だと言われて、どうするか考えていた。
それで、メールで「私は行きたい高校があるのだけれど、先生がダメだと言うのですが、どう思いますか?」と書いて送信すると、トオルから返事がきた。「自分の人生だから、後悔しないのであれば、挑戦してみたら?」と。それから、しばらくカナからの返事もなく時が流れて、桜の花の咲く季節が廻りきたある日に「明日は、高校試験の合格発表の日ですが、よく眠れませんが、どうしたらいいと思いますか?」とメールが届くと、トオルは、「眠れない時は、牛乳を飲むといいかもしれない」と返信をすると、翌日メールがきて、「朝、起きると、母は先に受験した高校に出かけていませんでした。私が後から受験発表の会場に行くと、母が号泣していました」とある。きっと先生が無理だと言った高校にもしも不合格なら、先に見ておこうと思ったのかもしれない。それで、ゆっくり寝ている娘を置いて出かけたところ、思いもかけず合格の発表に驚き、感極まり号泣していたようである。
高校にカナが入ると、「私は野球部に入りました」とメールが来る。トオルが「えっ、女の子が男子の野球部にはいるとは?」と不思議に思っていると、その高校が夏の甲子園大会に出場するのである。
女子のカナが目指していたことは、野球のベンチでの選手の記録係と食事のメニューを考えることであった。選手が一番いいコンディションで試合ができるようにする裏方の仕事であるが、試合の当日は、ベンチにはいることができるのである。
カルラが、インドネシアから日本へ男たちの中に入り丸木船でやってきたように、カナも同じ遺伝子が眠っていたのか、男の世界に積極的に入ってゆく姿は、古代のジマ大国を目指すカルラと重なるのである。
投稿千景
視点を変えると見え方が変わる。エドサトウさん独特の視点で世界を切り取る連載コラム「投稿千景」。
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