先月号の「猿」と「猴」に関するエッセイを読んだお馴染みさんからいろいろコメントをいただいた。その中に日本語超上級の生徒からちょっとびっくりする質問が届いた。日本の漫画の中に「猿に絵馬」という言葉があり、意味は調べて何とか分かりましたが、なぜ猿なのか・・・、先生のエッセイを読んで質問したくなりました、である。さらに質問は続く、「絵馬」はもちろん知っていますが、なぜ「馬」が出てきますか・・・。うーん。
まことにドッキリする質問である。先ず、この「猿に絵馬」だが、はるか昔サラリーマン時代に聞いたような記憶はあるが、意味など全く覚えておらず、調べてみると「相性や取り合わせが良いもの」とのこと。例文として、今度の新しい課長は部長と「猿に絵馬」らしいからやりやすいね。なるほど。
だが、この慣用句はほとんど知られておらず、漫画などに載せるのはいかがなものか。せめて「梅に鶯」であれば・・・、良き組み合わせとして上級者に教えたことがある。
でも、確かになぜ猿が登場するのか・・・まるで見当もつかず、いろいろググってみた。昔、特に農家では馬はとても大事で、猿がその馬を守ってくれる守護神とされていたようである。そこでお正月に「猿」と「馬」と一緒の絵を「絵馬」に描いて、神さまに奉納したとのこと。うーん、あまりピンとこないが、「猿に絵馬」として、相性のいい組み合わせになったようである。
次に「絵馬」の漢字がなぜ「馬」なのか、の質問。この絵馬は日本の文化として上級者には教えることもあり、また「合格祈願」などと書いて、日本の神社にお参りした経験を持つ生徒もおり、絵馬がなぜ「馬」なのか、気になるとのこと。なるほど。しかしそんなこと考えたこともなく、日本語教師として最初に質問されたときは大いに戸惑ってしまった。
ナント「絵馬」の起源は奈良時代までさかのぼる。当時は祭事に本物の馬を神様に献上するのがしきたりだったようである。でも生きた馬では捧げる側も授かる神社も大変。そこで板に馬の絵を描いて捧げるようになったとのこと。「絵に描いた馬」、これが「絵馬」の始まりだといわれており、五角形は屋根をかたどった家を模した名残とのこと。至極納得。
このように「絵馬」は古い歴史を持つ風習で、特に江戸時代に一般庶民にも広まり、個人的な願いを絵馬に書くことが大流行、古き日本文化として脈々と引き継がれてきた。
久しぶりの日本行きを秋ごろ計画している。こんなご時世、幸いコロナなどに一度もかからず、健康のありがたさを身にしみて感じたでござる。そこで、感謝の意と「健康祈願」と絵馬に書いて、近くの神社に奉納する所存でござりまする。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca