「薬剤師の新しい仕事」またお薬の時間ですよ!

 日加トゥデイ読者の皆様、こんにちは。カナダ西海岸、ギブソンズという小さな町で薬局薬剤師をしている佐藤厚と申します。今回は記念紙の発行に合わせて久々にコラムを書かせて頂きます。

 まずは、新型コロナの流行が始まってから薬局でどのような変化が起こったかを大雑把に紹介します。2020年の初頭、誰もが「新型コロナウイルスって一体何なの?」と思っていた頃、その感染力の強さからラジオやテレビでは盛んに「ステイホーム!」と呼びかけられました。しかし、このステイホーム作戦こそが、人々のマインドセットに大きな影響を及ぼしました。

 薬局に関していうと、ステイホームによりストレスを募らせた患者さんと接する場面が激増し、心無い言葉などに疲弊した多くのスタッフが職場を去っていきました。カスタマーサービスを主とする他の産業でも同様の現象が起き、「Great Resignation」(大量自主退職)という社会現象が起こりました。

 少ない労働力で、それまでと同じ量の処方せんのオーダーに対応するために、営業時間を短縮したり、週末を休業して対応する薬局が増えました。今でも、多くのチェーン薬局で、早い時間に薬局だけがドアを閉めているのはそのためです。最近になって、ようやく労働力確保に改善の兆しが見られてきましたが、コロナ前の水準には戻っていません。

 Great Resignationは、病院やメディカルクリニックにも大きな影を落としました。医師や看護師の不足により、ウォークインクリニックや病院の救急外来(ER)での受診は待ち時間は伸び、ファミリードクターの予約は2、3週間以上先というのが新しい日常となりました。もっともコロナを機にリタイアしたり、新たな専攻を選んだ医師も続出し、ファミリードクターを持たない「ファミリードクター難民」が多く生まれました。

 このような医療難民の救済に向けて、薬剤師に白羽の矢が立ちました。まず、2022年10月に発効したのは、薬剤師による処方せん期間の延長で、正式には「adaptation」と呼ばれるものです。6ヶ月以上用量の変更のない慢性疾患の治療薬で、患者さんの状態が安定している場合に限り、医師の処方せんを発行日から最長2年間まで継続することができるようになりました。

 これはまるで医師の診察を受けなくてよいというものではありませんし、どんな薬でも延長可能という訳ではありません。薬剤師には次回の受診予定がいつ予定されているからそれまで処方せんの延長をしてほしいといった風に相談してみてください。

 さらに今年の6月1日からは、Minor Ailments(マイナーイルメントと発音、軽度の疾患という意味)において、薬剤師が薬を処方できるようになりました。メディアでは、あたかも新しいサービスのように紹介されることもありますが、他の州では既に導入されていた制度です。BC州の隣のアルバータ州では10年以上前から薬剤師が薬を処方していましたから、実績のあるシステムと言えるでしょう。以下、Minor Ailmentsに含まれる疾患のリストになります。

にきびアレルギー性鼻炎 結膜炎  皮膚炎  
月経痛消化不良逆流性食道炎頭痛
口唇ヘルペスとびひ筋骨格系の痛み 
ニコチン依存症口内炎口腔カンジダ帯状疱疹
線虫症尿路感染症虫刺され膣カンジダ
真菌感染症(水虫、爪白癬など)避妊薬(ピル、IUD、緊急避妊薬)💊💊

 薬剤師は、問診により、自覚症状や既往歴、内服薬、家族歴、アレルギー歴等の情報を収集して処方の可否を判断しますが、触診や血液検査はありません。処方が適切とみなされる場合には、用法・用量などを説明し、薬局でそのまま調剤作業に入りますが、アセスメントの結果によっては、すぐに医師の受診をお勧める場合もありますので、ご留意ください。

 最後に、私の初めての処方経験をお話しします。2歳の男の子の顔にとびひが疑われる箇所があり、お母さんは市販の抗菌薬を何日が塗り続けたものの改善が見られなかったとのこと。皮膚症状以外の健康上の問題はなかったため、抗菌剤の塗り薬を処方しました。数日後、おばあちゃんと買い物に来た男の子の患部は綺麗に治っているではありませんか。おばあちゃんに「この前はありがとう」という感謝の言葉を頂きましたが、私の方こそ薬剤師として信頼して相談して頂き、非常に嬉しく思いました。

 最後にお知らせですが、コラムを「またお薬の時間ですよ!」と改め、再開することに致しました。薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。これからも宜しくお願い致します!

 編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

「お薬の時間ですよ」はこちらから。