ようやくコロナも明け、青空も広がり、これぞバンクーバーの夏。例年より少し暑い感じもするが、日本と比べると雲泥の差。素敵な盛夏の候、暑中メールを友や生徒などと取り交わしている。格好よく文末に「ご自愛ください」と書いてくれる人も多い。でも時折、「お体ご自愛ください」と記してあるメールも見かける。うーん、気持ちはうれしいが、やはり気になってしまう。
この「ご自愛ください」はこの表現だけで「お体を大切にしてください」という意味。「自」は「体」を、「愛」は「大切に」を表わしている。よって、「お体」を付けてしまうと、「女の婦人」や「馬から落馬」のような、いわゆる重複表現になってしまう。「お体」など付けず、単に「ご自愛ください」が適切な使い方である。
この重複表現だが、例えば「後で後悔するぞ~」など会話として使うのであれば、強調やユーモアなども感じられ別に問題なし。しかしメールなどの書き言葉では、文書として残るので要注意。特にこの「お体ご自愛ください」はいろいろ話題になっており、違和感を感じる、ではなく、違和感を覚える人もかなりいるので・・・気をつけなければならない。
またこの表現、使う相手も結構ややこしい。かなり親しい人に使うと、個人差もあろうが、確かによそよそしさを感じる人も多いのでは。この「ご自愛ください」は公式なビジネス文書などによく使われるので、かしこまった雰囲気を持っている。それゆえ、すごく親しい友達などには使いにくいかも・・・。
さらに、病気や怪我など患っていることが分っている人にこの「ご自愛ください」は失礼な印象を与えてしまう恐れもある。確かに。
このように、この「ご自愛ください」の用法はめっちゃムズい。そのあたりを感じてか、最近の若者世代はあまり使わなくなってしまったようである。いとさびし。
確かに、SNSなどに「ご自愛ください」はそぐわない感じも・・・、でも逆に、親しい卒業生からLINEなどに「まだコロナも完全終息ではないようです。くれぐれもご自愛ください」などと書いてあると、思わず「はい、気をつけますよ」と襟を正したくなる。いとおかし。
この「ご自愛ください」はなかなか品格漂う、粋な表現である。うまく使いこなして、ぜひ締めの挨拶に使っていただきたい。読者の皆さま、残暑厳しい折、くれぐれもご自愛ください。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca