最近のBC州の避妊薬事情

 最近インターネットで日本のニュースを見ていると、女性の健康や性に対して、オープンになってきたという雰囲気が感じとれます。これは、新型コロナウイルスの流行が女性の仕事や生活に影響を与え、生理用品の支援を必要とする人が増えているというニュースが世界的に流れたことにもよるでしょう。

 この「生理用品を購入できない」という問題は、「生理の貧困(Period Poverty)」と呼ばれ、社会課題として解決していこうという動きが世界中で見られます。生理用品を無償配布する自治体や学校も増えているようです。

 女性の生理は生殖に直結していますが、北米では、女性が主体的に行える避妊法として、経口避妊薬は1960年代から使用されてきました。これは生理用品同様、女性に対してコストのかかる避妊法でしたが、今年の4月からブリティッシュコロンビア(BC)州では、ほとんどの避妊薬が自己負担金なし(全額公費負担)で購入できるようになりました。

 自己負担なしで購入可能な避妊薬は、経口避妊薬(ピル)、銅付加子宮内避妊具(copper IUD)、ホルモン付加子宮内避妊具(hormonal IUD)、注射剤、皮下インプラント、子宮内リング、そして緊急避妊薬(別名:モーニングアフターピル)です。避妊パッチ(Evra®)、避妊リング(Nuvaring®)はプログラム対象外のため自己負担になります。公費負担の避妊薬の詳細なリストは、こちらになります。

Goverment of BC: Free contraceptives https://www2.gov.bc.ca/gov/content/health/health-drug-coverage/pharmacare-for-bc-residents/what-we-cover/prescription-contraceptives

 一般的な傾向として、カナダでは経口避妊薬の使用率は高く、経口避妊薬は避妊効果の他にも月経痛や月経不順の緩和、皮膚の健康などの利点があるため、幅広い年齢層の女性が服用しています。ただ、このリンクのリストを見ていただくと分かるように非常に種類が多いのですが、これには理由があります。

 経口避妊薬には、プロゲスティンとエストロゲンというホルモンを組み合わせた混合型のものと、プロゲスティン単独のものがあります。プロゲスティンの種類によっては、アンドロゲン(男性ホルモン)作用が強く、食欲増進、体重増加、多毛、ニキビといった副作用を起こすことがありますが、ホルモンバランスは女性によって異なりますので、これを考慮してエストロゲン優位、プロゲスティン優位、アンドロゲン優位なタイプのピルを選ぶという流れになります。

 ピルには、開発された順に第1~第4世代の製品がありますが、これはアンドロゲン作用による体重増加やニキビといった副作用軽減のために改良が続けられてきたためです。黄体ホルモンの違いが、そのままアンドロゲン作用の強さの違いであり、第4世代のピル(先発品商品名YasminやYaz)にアンドロゲン作用はほとんどありません。

 また、ピルの選択は、年齢、体重、喫煙習慣、高血圧・血栓症・乳がん・冠動脈疾患・肝腫瘍の既往歴、そして併用薬の有無等により変わってきます。

 最近では、飲み忘れの心配がなく、経口避妊薬に比べて避妊効果の高い子宮内装具(Intrauterine device ; IUD )や皮下インプラント(皮下に埋め込むタイプの避妊具、商品名Nexplanon)を選ぶ人が増えています。一度装着されれば長期に渡り効果が継続し、銅付加IUDでは最長10年、ホルモン子宮内避妊具で5年、最も避妊効果の高い皮下インプラントは埋込後3年間の効果があります。

 こちらのリンクは、それぞれの避妊薬の効果を比較した表になりますので参考にしてください。

The Society of Obstetricians and Gynaecologists of Canada (SOGC):  HOW EFFECTIVE IS MY BIRTH CONTROL?
https://www.sexandu.ca/wp-content/uploads/2018/09/Failure-Rate-2018.pdf

 さらに、前回の記事でも紹介したように(「薬剤師の新しい仕事」)、今年の6月1日からは薬剤師が避妊薬を新規処方できるようになりました。緊急避妊薬は以前から市販薬として購入できるものでしたが、現在では薬剤師が処方箋として調剤することで、自己負担なしで購入できるようになりました。緊急避妊薬が欲しい旨を薬剤師にお伝えください。

 一点だけ注意になりますが、女性用の避妊薬では性感染症を防ぐことができません。バリア法(男性用および女性用コンドームのこと)は公費負担の対象外ですが、性感染症の予防には大きな効果がありますので、性感染症リスクのあるシチュエーションにおいてはこちらを適切にご使用ください。

 BC州では、女性主導の避妊において費用はネックではなくなりました。薬剤師とコミュニケーションをとりながら、健康とライフスタイルに合った避妊方法を選んで頂けると幸いです。

(1)避妊薬の無償支給の対象は、BC州の健康保険システムであるメディカルサービスプラン(MSP)に登録しているBC州民です。
(2)IUDは、患者さんが薬局でピックアップした後、ナースプラクティショナーやドクターが挿入処置を行います。

私の薬局で患者さんのピックアップを待つIUDの箱。
私の薬局で患者さんのピックアップを待つIUDの箱。

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*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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