北米最大の動物保護施設BC SPCA バンクーバーの動物福祉を考える(前編)「バンクーバーのペット事情とBC SPCAの活動」

 家庭にペットを迎え入れたいと思ったとき、まずどこへ向かうだろうか?ペットショップだろうか、それともSPCAだろうか。ここブリティッシュ・コロンビア(BC)州では、ブリーダーや動物保護施設から動物を引き取るのが主流となっている。

 その核のような存在を担っているのがBC SPCA(The B.C. Society for the Prevention of Cruelty to Animals)。動物を虐待から救い、全ての動物の生活の質を保護・向上させるために非営利で活動している北米最大の動物保護施設だ。

 8月21日、バンクーバー市内にあるBC SPCA施設を訪問し、代表を務めるJodiさんに話を聞いた。

 この記事ではBC SPCAがBC州でどのように人々の意識を変え、動物保護活動を前進させてきたのかを紹介する。前編では現在のバンクーバーのペット事情やBC SPCAの活動について、後編では北米最大の動物保護施設に成長させたJodiさんの成功秘話について。

BC SPCA代表Jodiさん。2023年8月21日、BC SPCA Vancouver。Photo by ©Koichi Saito
BC SPCA代表Jodiさん。2023年8月21日、BC SPCA Vancouver。Photo by ©Koichi Saito

現在のバンクーバーのペット事情とBC SPCAの役割

-店頭で犬や猫が売られているのを目にしませんが、バンクーバーではペットショップはどのように機能しているのでしょうか?

 カナダでは、多くの都市でペットショップがペット(犬猫)を販売することを禁止しています。主に犬に関しては、悪質なブリーダーやパピーミルの出身であることが懸念されたり、病気や健康問題が出てくることがあったりしたためこのような措置が取られました。

 そこで現在ペットショップはさまざまなレスキュー団体と協力しています。レスキュー団体が救助した猫や子猫を持ち込み、ペットショップと協力して譲渡活動(新たな飼い主を見つける活動)を行っています。通常、犬はペットショップに置かれませんが、犬を1日店内に滞在させて、訪れた人々が犬について学び、譲渡について考えられる特別なイベントも開催されています。

 BC SPCAはペットショップからたくさんの鳥やハムスター、モルモットを引き取っていますが、最終的にはそのような小動物も一切置かれないことを目指しています。なぜなら、人々がペットショップで動物を見かけ、同情して購入することがあるからです。そのあと飼うことが難しいと気づいてもペットショップは返品を受け付けないため、動物保護施設が引き取ることになります。最終的な目標はこの流れを完全に止めることです。

-BC SPCAで保護される動物について教えてください。

 私たちのシェルターには、さまざまな機関を通じて動物たちが入ってきます。飼い主から引き渡されたり野良動物を保護したり、通報があれば動物虐待調査部門を通して入ってきます。先週は犬、猫、ウズラ、ニワトリなど、111匹の動物を保護しました。

 このような数の動物を受け入れると、私たちは大きな組織なのでBC州に43カ所ある施設全体に分散させる必要があります。なかでも北部の支部で多くの動物が保護されますが、その地域では飼い主が不足しています。一方バンクーバーには飼い主候補となる人が多いため、700匹以上の動物がバンクーバーの支部に引き取られているんです。

行動学の研究者との意見交換で、保護された全ての猫が成長するためには最低でも11平方フィートの広さが必要だという。この施設では、一度に収容できる猫の数は減ったが、全てのケージに移動できる出入口を作り、猫に必要なスペースを確保している。2023年8月21日、BC SPCA Vancouver。Photo by ©Koichi Saito
行動学の研究者との意見交換で、保護された全ての猫が成長するためには最低でも11平方フィートの広さが必要だという。この施設では、一度に収容できる猫の数は減ったが、全てのケージに移動できる出入口を作り、猫に必要なスペースを確保している。2023年8月21日、BC SPCA Vancouver。Photo by ©Koichi Saito

-各地から人口が多いバンクーバーに運ばれてくるのですね。保護された後はどうなるのですか?

 動物たちが施設に来ると、まず診察室で健康状態などのチェックが行われます。マイクロチップの有無を確認し、口、耳、目、足をチェックします。ワクチン接種、虫下し、ノミの駆除をします。病気が見つかれば獣医に連れて行きます。マイクロチップがあれば追跡することができるので、飼い主の情報を入手して電話をかけます。

 また、現在私たちは組織として大きく成長したため、猫や子猫は飼い主が決まる前に100%不妊去勢手術を受けさせることができるようになりました。これにより新たな子猫が誕生することが防がれています。今では猫や子猫が過剰に増えることはなくなりましたが、そこに至るまでには長い年月がかかりました。

 今は飼育数が多すぎたりスペースがなかったりという理由で殺処分することはありません。動物が処分されるのはその動物が重篤な病気である場合、もしくは攻撃的で人や他の動物をひどく傷つける可能性があり、そのような危険な行動を直せない場合です。

-保護された動物はどのように民間に引き取られるのでしょうか?

 私たちはマッチングを大切にしています。スタッフやボランティアが実際に面接をして、飼い主と動物の相性が良いかどうかを確認します。先着順でもなければ、気に入ったからもらえるというものでもありません。

 飼い主になる人にとっても、動物にとっても、最善の選択であることを確かめる必要があるのです。例えば、子犬は散歩やトイレなど家庭でのしつけが必要ですが、もし飼い主が毎日仕事で10時間留守にしていたら子犬は学ぶことができません。

-引き取り手が見つかるまで一時的に動物を預かる「フォスタープログラム」があるとお聞きしました。

 はい、数百人のボランティアが動物を一時的に預かってくれています。けがをした動物や幼い子のいる母犬や母猫、病気の動物なども回復するまでフォスターファミリーに預けられます。例えば山火事などにより避難警報が発令されたら、自宅から避難している人たちが自宅に戻るか別の家に移るまで、動物は私たちのシェルターかフォスターファミリーのもとで保護されています。これは私たちが提供している大きなサービスであり、飼い主にはお金がかかりません。

 フォスターファミリーには食べ物、ベッド、おもちゃ、食器、リード、首輪など必要なものを全て提供しています。彼らは私たちのために動物の世話をしてくれていて、なくてはならない存在です。

 このプログラムがなければ、施設にいるべきでない幼い動物が施設内に残ることで病気になる可能性があるため、私たちは非常に注意しなければなりません。そのためにこのすばらしいフォスタープログラムがあるのです。

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 BC州ではSPCA各支局、フォスターファミリーが協力し、動物を保護している。話を聞いて感じたのは社会全体が動物と人とが対等である感覚を持っているということだ。家庭でもし子どもが虐待されていたら近所の人が警察に通報するように、ペットでも家庭に問題が見つかればSPCAに通報が入る。またSPCAの動物虐待調査部門は、特定の資格を得て動物を飼っている家庭に調査に入る権利があり、動物の安全を守る機能を持っている。

 後編では、BC州の動物福祉がどのように進展してきたのか、BC SPCAを北米最大の動物保護施設に成長させたJodiさんの成功秘話を紹介する。

BC SPCAウェブサイト: https://spca.bc.ca/

(取材 池田茜音/写真 斉藤光一)

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