トロント国際映画祭TIFFで「なすび」さんのドキュメンタリー「The Contestant」上映

イギリス人女性監督の作品が注目を集める

ドキュメンタリー映画"The Contestant"のクレア・ティトリー監督。Photo credit: Joe Short
ドキュメンタリー映画”The Contestant”のクレア・ティトリー監督。Photo credit: Joe Short

 バラエティ番組「進ぬ!電波少年」の企画「電波少年的懸賞生活」で知られる、なすびさんを追ったドキュメンタリー「The Contestant」(クレア・ティトリー監督)がトロント国際映画祭で上映。上映は2回とも売り切れ、2回行われたプレス向け上映もどちらもほぼ満席となるほど注目を集めた。今回上映のためにイギリスからトロント入りしたティトリー監督が9月10日、取材に応じた。

 1998年から99年に放送された同企画。期間中なすびさんは裸でアパートの一室で生活。衣類、食べ物を含め必要なものは全て、懸賞で当選することによって手に入れなければならず、当選金額の合計が100万円に達成するまで外には出られないという内容。なすびさんが裸で当選賞品を持って踊る様子や空腹に耐えかねて賞品のドッグフードを食す様子などが笑いと話題を呼び、番組は高視聴率を獲得、なすびさんがつづった日記はベストセラーとなった。

 ドキュメンタリーは、なすびさん本人、家族、番組プロデューサーを務めた土屋敏男さん、そして番組を取り上げた海外メディアなどへのインタビューを通して、当時の状況となすびさんの心理状況などを振り返り、懸賞生活後に紆余曲折を経て福島の復興支援に奮闘する現在のなすびさんの姿まで、その生きざまを追う。

 他のプロジェクトのためにネットでリサーチをしている際に「懸賞生活」について知ったというティトリ―監督。「日本のクレイジーな番組企画というのは海外でも知られているのだが、なすびさんについて知った時、これはクレイジーだけで片付けられないものを感じ深く掘り下げたいと思った」と明かす。なすびさんにコンタクトを取り、何度も話し合い、制作にこぎつけた。「番組終了からかなりの年月が経つ今だからこそ、全てを話せるという気持ちになってくれたのではないか」と話す。

 映像はテレビを見ている人が楽しんでいる場面と対象的な、なすびさんの孤独と精神面での辛さやテレビで見守る家族の苦悩を浮き彫りにする。一度は目標を達成したのに更に韓国で続けることが決まった際、企画終了の瞬間を観客の前で収録する際など、時に残酷すぎると思われる状況になすびさんを追い込んだいきさつを土屋プロデューサーが振り返るシーンも収録。「土屋さんにはなすびさんが出演をお願いしてくれた。『なすびがやりたいのなら』と快く同意してくれ『当時の状況を正確に正直に話したい』と当時の土屋さんの立場からの見方を話してくれた。とても勇気がいることだったと思う」とティトリ―監督はその協力に感謝を表す。

 観客からは「なぜ彼は企画を拒否しなかったのか」、「なぜこの様な企画が通ったのか」、「彼は制作側を訴えなかったのか」という質問を受けたという。「当時の日本ではプロデューサーは契約書や同意書もなしに企画を実行する力があったし、若手芸人には断る選択肢はないという風潮があったようだ」と当時の制作現場のあり方に監督自身も驚いたことを明かす。

 「多くの人が企画はある程度やらせ的な部分があると思いながら観ていたとも聞いた。一人の人間の精神的な苦悩が純粋にエンターテインメントとして放映されていた事実は、リアリティ番組が世界中のテレビやYouTubeなどで人気を獲得している現代にも改めて考えてみる必要があると思う」と制作の意義を話す。そして「さまざまなものを克服し、今は人との交流を大切に福島を拠点に活躍しているなすびさんを見てほしい」とメッセージを送った。

ドキュメンタリー映画"The Contestant"より。Courtesy of TIFF
ドキュメンタリー映画”The Contestant”より。Courtesy of TIFF
ドキュメンタリー映画"The Contestant"より。Courtesy of TIFF
ドキュメンタリー映画”The Contestant”より。Courtesy of TIFF

(取材 Michiru Miyai)

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