慶應義塾大学法学部教授・森聡氏がブリティッシュコロンビア大学(UBC)で11月2日講演した。テーマはインド太平洋地域の安全保障における日本の役割 “Japan’s Role in Indo-Pacific Security”。
講演はUBC日本研究所(Centre for Japanese Research)と在バンクーバー日本国総領事館が主催。UBC日本研究所からは所長のイブ・ティベリエン教授が、総領事館からは丸山浩平総領事があいさつした。
当日は在バンクーバー各国総領事・総領事館関係者やブリティッシュ・コロンビア(BC)州政府関係者、在留日本企業代表などが出席したほか、UBCの学生も多く参加。120人以上が集まった。
内容はインド太平洋地域の安全保障における日本の役割に焦点をあてて説明。講演の後の質疑応答では質問が途切れることがなく、同テーマにおける関心の高さが現れていた。
インド太平洋安全保障における「カナダ発の議論」を
森教授は、ワシントンDCほかアメリカの数カ所を訪問した後、カナダではバンクーバーの前にオタワで講演した。
バンクーバー講演前にオタワでの反応について聞くと、「カナダもインド太平洋戦略を策定してどういったところに日本とカナダで協力できるところがあるのか、というところに関心を持たれて参加されてる方が多かったです」と語った。安全保障についての講演ということで、中国や北朝鮮に対する関心が高かったという。
「具体的にどんな利益をカナダはインド太平洋地域に見出しているのかっていうことを明示しないと協力の余地もどこにあるのか分かりませんし、いま世界各国がなんとなくインド太平洋にエンゲージしなきゃいけないっていう気持ちがあって、ビジョンをみんな出しているんですけど、じゃあコンクリートな利益っていうのは何なのか、っていうのは多分いま一つ具体的に定義できてないところがあるので、そういう作業からやらないといけませんねっていうような話をさせていただきました」
オタワでは安全保障に対する日加協力というよりは、「日本がこういう風にいま安全保障の面でインド太平洋地域を見ていますとか、最近の防衛費増額で何を目指しているのかとか、外交の分野で自由で開かれたインド太平洋って言っているけれど具体的にどういうイニシアチブを取ってるのかとか、また最近は経済安全保障も非常に関心が高いので、一体日本はその問題をどう捉えているのかといったように、どちらかというと日本の視点をご紹介するという形でお話ししたんです」と説明した。
そうすることで、「カナダの皆さんにはそれを聞いて、じゃあカナダと日本との間でどういう協力があるのかっていうことを考えるきっかけみたいなものを提供できればという趣旨でお話ししました」と言う。バンクーバーでの講演も同様で、講演の最後には「日本とカナダはインド太平洋地域でどのように協力できるのか」という問いを投げかけた。
森教授は、「どれくらい切実な問題として、カナダの皆さんが台湾の問題を考えているのか、あるいは北朝鮮のことをどう考えてるのか、っていうのはすごく関心があるんです」と話す。
台湾有事はカナダの安全保障にも直接影響を及ぼす問題と指摘する。「もし起こってしまった時に一体どれほど自分(カナダ)の利害があるのかっていう理解すらなかったら、どう反応していいのかはっきりしないと思うんです」と森教授。「だからこそ、そこはカナダ発の議論をもっと活発にやっていただけるといいかなっていうのはすごく思います」と語った。
議論とは何かとの問いには「この問題は、政府と軍と、あと国民、その3つでやらなくてはいけない議論だと思っています。もし仮になにか有事が起こったら相当大きな紛争になると思いますので、政治と軍だけで決められる問題ではなくて、社会が最終的にはそこをサポートするかしないかっていうのはすごく重要だと思いますので、社会全体の議論が必要だと思います」と語った。
(取材 三島直美)
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