閖上メイプル館オープンから10年、櫻井氏講演と立命館永野ゼミ防災ワークショップを開催

永野ゼミ生4人、永野准教授、櫻井氏、日加商工会サミー高橋会長、ケイシー若林副会長、ウィットレッド副会長。2023年11月5日、バンクーバー市内。写真提供:日本カナダ商工会議所
永野ゼミ生4人、永野准教授、櫻井氏、日加商工会サミー高橋会長、ケイシー若林副会長、ウィットレッド副会長。2023年11月5日、バンクーバー市内。写真提供:日本カナダ商工会議所

 ゆりあげ港朝市協同組合代表理事・櫻井広行氏、立命館大学産業社会学部永野聡准教授と永野ゼミの学生4人が11月5日、バンクーバー市内で講演会と防災ワークショップを開催した。

 講演は、「支援への感謝、震災時のリーダーとしてのふるまい、復興の過程共有」をテーマに櫻井氏が、ワークショップは、「防災に触れる、震災を想定して考えるマップを使った実践ワーク」を永野ゼミ生が担当した。

自分が経験したことと関係の深いイベントを後援することができてうれしいと語るウィットレッド副会長。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today
自分が経験したことと関係の深いイベントを後援することができてうれしいと語るウィットレッド副会長。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today

 後援した日本カナダ商工会議所のウィットレッド太朗副会長は、「震災があった時には名取市の自宅が崩壊し家族も避難しなければならなかった」と話し、自らの経験とかかわりが深いイベントの開催について「いろんな形でかかわって協力することができたら」と櫻井氏、永野准教授一行のバンクーバー訪問を後援することになったと紹介した。

 今年は東日本大震災で被災した宮城県名取市閖上(ゆりあげ)にメイプル館がオープンして10周年。甚大な被害を受けたゆりあげ港朝市商店街の復興にカナダが支援する「カナダ-東北復興プロジェクト」の一つとして、メイプル館と他2棟の建設が2012年12月にスタート、2013年5月に完成。ゆりあげ港朝市は震災から2年で復興した。

カナダの人に感謝の気持ちを伝えたい

写真やビデオで震災当時の様子などを示しながら状況を語る櫻井氏。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today
写真やビデオで震災当時の様子などを示しながら状況を語る櫻井氏。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today

 ゆりあげ港朝市を震災前と同じ場所で復活させたいと奔走したのが櫻井氏。講演では、震災当時のビデオや写真で被害の大きさを改めて紹介したほか、被災者へ食料を配送した当時の苦労や震災直後に食料提供のために朝市を開催したことなどを話した。その状況下でカナダから支援の申し出があったこと、自分たちの活動を見て推薦してくれた人がいたと聞いたことなど、カナダとの縁を紹介した。

 メイプル館は、カナダ連邦政府やブリティッシュ・コロンビア州の企業などの支援により実現した。館外にはカナダ国旗が掲揚され、館内には国旗以外にもブリティッシュ・コロンビア州旗とアルバータ州旗が飾られているという。

 櫻井氏は「メイプル館と他2棟を建てることによって、約2年ぶりですけど、現地で商売始められたということ、そのおかげで名取市や宮城県から支援がありまして、それで別3棟を建てて現地に(朝市が)復活できたっていうことは、カナダの支援なしでは考えられない」と話した。メイプル館の完成は街に約400人の雇用を生み、現在も朝市は毎週日曜日に開催、メイプル館は木曜以外毎日開館している。

 新型コロナウイルス感染が拡大した当初は客足が減ったが、海沿いに立つ立地が新型コロナの影響を受けにくいとすぐに市民の台所となり憩いの場となったという。

 いまはメイプル館の前にウッドデッキを設置して、被災地の住宅地では唯一残ったという松林を被災の教訓とできるようデッキから松の木に触れられるようにしている。「そういう形で 3.11 のイメージみたいなものをね、身近に考えてもらいたいなという風な形で復活させています」と話す。

 今回のバンクーバー訪問ではカナダの人々に「本当に感謝の気持ちを伝えたいとずっと思ってたので」と強い気持ちで来たと言う。「震災で被災地に支援していただいたことがちゃんと繋がっているということを伝えたかった」と感謝した。

もう一度、東北とカナダとの交流を盛んに

講演前にあいさつする永野准教授とゼミ生。講演中はビデオ上映などで櫻井氏を補助。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today
講演前にあいさつする永野准教授とゼミ生。講演中はビデオ上映などで櫻井氏を補助。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today

 永野准教授は東北とカナダの関係が希薄になってきたと感じていると語った。メイプル館もあるし、カナダ国旗も飾られているが、「その支援の背景を知ってる人も少なくなり、話題にすることもあまりなくなりました」と話す。今年5月に行われた開館10周年セレモニーも自分たちで企画したという。誰も忙しいので「誰か言わないとやらないので私たちでやってるんですけど」と笑う。

 今回のバンクーバー訪問も同じ。自分たちで企画して行動に移した。「(関係者たちは)忙しい日々の生活で、そういうところに関心があっても一歩踏み出せないと思うんです。でも、私たちは研究とか学生の教育とかそういうことで動けます。であればそういう立場から何が私たちだったらできるだろうか?ってことを考えると、カナダと閖上のつながりってところをしっかりと次の世代につないでいく。今回のイベントだったり、セレモニーなどを通していろんな人に知ってもらったりということが私たちだからできるのかなと思っていて実践しています」

 櫻井氏とは早稲田大学建築学科の助手時代に知り合った。「閖上の朝市は隣町で私が小さい頃から行ってたところ」と話す永野准教授は、仙台出身で実家は被災した。当時、自分たちにも東北のために何かできないかと被災地を回ったが有名な建築家でもない若い自分たちは門前払いされたという。そんな時に知り合いの建築家を通して知り合ったのが櫻井氏。「どうしても現地で(市場を)再建したいと。仮設じゃなくてコンセプトがきちんとしたものを作りたいって思いがすごい強くて」と振り返る。以来、協力しながらプロジェクトを続けている。

 東日本大震災からの復興もまだまだ途中だと感じている。メイプル館オープン10周年などの機会がないと話題に上らなくなった震災復興だが、「私は故郷っていうのもあるので、ライフワークとして私が行くところではずっとやり続けたいかなと思っています」と語った。

ゆりあげ港朝市メイプル館

宮城県名取市閖上で2023年5月4日に開館。特産品・復興グッズなどの販売をするほか、震災前後の写真展示・津波映像の放映コーナーを設置して当時の状況を伝えている。フードコートもあり海の幸を堪能できる店舗が並んでいる。
ウェブサイト:https://www.yuriageasaichi.jp/maplehall

名取の子どもたちからカナダの人々に贈られた感謝の言葉。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today
名取の子どもたちからカナダの人々に贈られた感謝の言葉。2023年11月5日、バンクーバー市内。Photo by Japan Canada Today
永野ゼミの4人が主導した防災ワークショップ。2023年11月5日、バンクーバー市内。写真提供:日本カナダ商工会議所
永野ゼミの4人が主導した防災ワークショップ。2023年11月5日、バンクーバー市内。写真提供:日本カナダ商工会議所

(取材 三島直美)

合わせて読みたい関連記事