カナダでメンタルヘルスを考える – 不安症編

 6月も下旬に入り、バンクーバーでも夏らしい日が増えてきました。私はこの夏、約25年ぶりにテニス大会に参加しようと意気込んでいます。しかし、お腹まわりは立派な中年サイズで、定期的に練習をしているわけでもありません。さらに、今年の山火事による大気汚染、熱中症や腰痛(激痛)の再発という不安もあります。

 ただ、医学的に不安症(anxiety disorder、不安障害)といった場合は、精神的、身体的症状が遥かに顕著になります。不安症は症状によっていくつかの種類に分けられ、代表的なものとして全般性不安障害、パニック発作とパニック障害、限局性恐怖症があります。

 全般性不安障害は、学校や家族・友人のこと、生活上のさまざまなことに極度に不安や心配が続く状態で、半年以上続くことが特徴です。不安だけでなく、落ち着きがない、疲れやすい、集中できない、イライラする、筋肉が緊張している、眠れないといった症状も見られます。

 パニック障害は突然、激しい動悸、息切れ、呼吸困難、発汗、吐き気、めまい、ふらつきなどの「パニック発作」が起きることが特徴です。その恐怖感が忘れられず、再度発作が起きるのではないかという恐怖から日常生活に支障をきたします。パニック発作が繰り返される場合をパニック障害と呼びます。

 限局性恐怖症は、特定の対象や状況に対して著しい恐怖反応を示す状態です。高所、虫、雷、血液、閉所や暗所、飛行機など、特定の状況や物に対する過度の恐怖心が身体症状として現れます。

 メンタルヘルスの管理で最も重要なのは、正しい知識を身につけ、自身のストレスに早めに気づき、適切に対処・予防することです。

 日本では、心の病気を専門に扱う診療科として精神科、精神神経科、心療内科、ストレス外来、メンタルヘルス科などがあり、早い段階から専門医の診察を受けることが可能です。

 一方、カナダではファミリードクターやウォークインクリニックの受診が第一歩となります。昨今の医師不足により、ファミリードクターの予約までの待ち時間が何週間、何ヶ月にもなることがあります。早めの診察を希望する方やファミリードクターがいない方は、ウォークインクリニックやオンラインで診察を行うバーチャルクリニックを利用することができます。

 医師の診察を受け、薬物治療が適当と判断された場合には薬が処方されます。不安症を含む各種の精神疾患は、脳内の化学物質のバランスが崩れることで身体的な症状が現れ、セロトニンやノルアドレナリンといった物質が関与することが分かっています。

 抗不安薬としては、ベンゾジアゼピン系の薬(化学構造に由来する抗不安薬の総称)が幅広く使われていましたが、依存性や副作用の問題から慎重に使用されるようになりました。抗うつ薬も不安症の治療に使われ、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、三環系抗うつ薬などが処方されます。初めの薬で改善効果が見られない場合でも、他の薬を試しながら医師と相談しつつ治療を続けることが重要です。

不安症の治療に用いられる薬
• ベンゾジアゼピン系薬(ロラゼパム、クロナゼパム)
• 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):fluoxetine, fluvoxamine, escitalopram, citalopram, paroxetine, sertraline
• セロトニン-ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI):Venlafaxine, duloxetine
• 三環系抗うつ薬:Imipramine, clomipramine
• その他:Quetiapine, buspirone, mirtazepine

 不安症は薬だけで完全に改善するわけではなく、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy)などの精神療法も併用することが推奨されています。臨床心理カウンセラーやサイコセラピストへの相談も可能ですが、ブリティッシュコロンビア州の公的健康保険であるMSP(Medical Service Plan)ではカバーされません。民間保険ではカバーされることがあるので、確認が必要です。

 もし自分や周囲の人が不安症の症状に悩んでいる場合は、まずは医師に相談することをお勧めします。

*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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