日本語教師 矢野修三
日本語超上級者からおもしろいメールが届いた。「もし沖縄で日本語を勉強していたら、先生に怒られませんでしたね(笑)」である。最初は意味がさっぱり分らなかったが・・・。こんな文章が続いた。「沖縄言葉についての『ことばの交差点11』を読んでそう思いましたね(笑)」である。
それは少し前に沖縄言葉(うちなーぐち)について書いたエッセイで、沖縄では文末に「ね」をつけて、例えば、「ランチに行きましょうね」。これは別に相手を誘っている言葉ではなく、自分が一人でランチに行く意味だと分かってびっくり。でも沖縄言葉では、このように会話文の最後に「ね」を付けるのが一般的で、確かに慣れれば温かみを感じる素敵な言い方。こんな内容であり、これを読んでの感想をユーモラスに書いて送ってくれたようである。
そういえば、彼女は会話で、文の最後に、理由もなく、よく「ね」をつけていたことを思い出した。例えば「出身はどこ?」の答えに「カルガリーですね」や「これから友達と会いますね」などなど。何回か注意したことがある。うーん、でももし沖縄だったら、注意されなかったかも。なるほど、ようやく彼女の言いたいことが分り、思わず笑ってしまった。
この終助詞、文末の「ね」は日本語教師にとって、かなり骨が折れる。日常会話において「今日は暑いですね」などのように文末に「ね」をよく付ける。これは話し相手に親しさを表わしながら同意を求めているので、相手が「はい、暑いです」と「ね」を付けずに返事すると、かなり不自然な冷たい感じの会話になってしまう。その通りですね。
そこで、生徒には会話における「ね」の重要性を教えなければ・・・。でも落とし穴が待っている。文末「ね」は他の使い方もいろいろあり、相手を確認する、例えば、「Aさんは大学生ですね?」に対して、しっかり「ね」を付けて、親しみを込めたつもりで、「はい、大学生ですね」と答える。うーん。気持ちは分かるが、でも、この場合は、「ね」を付けると不自然な会話になってしまう。こんなこと日本人にしてみればごく当たり前のことだが、生徒にすれば確かに難しい。
レベルが上がるにつれ、なるべく日本語らしい自然な会話をしたくなり、「ね」をつければ親しみのある会話になると思って、どんな場合でもこの「ね」を付けてしまう生徒、特に女性に多い。メールをくれた彼女もそう思っていたとのこと。アニメなどの影響大である。
この文末の「ね」は会話に親しさや柔らかさを出すにはとても効果がある。依頼や誘いなどの「またお願いしますね」や「また一緒に飲もうね」など、確かに「ね」を付けると、とても効果的。
でも、親しさを出すつもりで、単なる自分の行動に、「私はあしたウィスラーに行きますね」や「これからカラオケに行きますね」のように、「ね」を付けてしまうと、親しみどころか「そんなこと知らないよ、勝手に行けば」と相手は気分を害してしまう恐れあり。さらに、「ありがとうね」などの「ね」はアクセントを変えることで、軽い感じの表現にも・・・。日本人は巧みに使い分けている。
このように「ね」はいろいろな用例があり、日本語教師としては大変。結局のところ、「習うより慣れよ」(Practice makes perfect)で、「体で覚えてね」とアドバイスしたいね。そして、「ね」について、沖縄出身の日本語教師とお話したいね。勝手にすればと怒られそう。
「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca