カナダでメンタルヘルスを考える – うつ病編(1)

 気がつけば、朝のひんやりした空気から夏の終わりを感じる今日この頃です。若い人の中には、9月から新たに大学生活が始まったり、社会人としての生活が始まる人も多いと思います。また、このタイミングで日本から留学やワーキングホリデーで来加された人もいるかもしれません。

 しかし、新しい学校、仕事、異国など、これまでとは異なる環境に身を置き、時にはハードワークが求められる状況が続くと、誰でも心が疲れてしまうものです。ゆううつ感が蓄積し、やがて慢性的な心身の不調やうつ病へとつながることがあります。

 特に、秋以降のバンクーバーでは日照時間がどんどん短くなり、サマータイムが終わって雨の日が増える11月には、日光を浴びる時間が極端に減少します。この地理的特性から、季節性情動障害(季節性うつ病、Seasonal Affective Disorder: SAD)の患者が増加する傾向もあります。

 うつ病の症状には、ゆううつ感、無気力、いらだち、食欲低下、不眠、身体の不調など、誰もが一度は経験するようなものが多く含まれます。しかし、これらの症状が長期化し、悪化することで仕事や学業に大きな影響を及ぼすのがうつ病です。重症の場合には、極端に悲観的な考えに陥り、生きる希望を失うこともあり、非常に苦しい状態となります。

 バンクーバーに本拠地を置くプロアイスホッケー(NHL)チーム、バンクーバー・カナックスに所属していたRick Rypien選手は、キャリアを通じてうつ病に苦しみ、何度もチームを離れて治療を受けました。Rypien選手が2011年に27歳の若さで自ら命を絶ったことで、うつ病の深刻さが社会全体に強く認識され、メンタルヘルスに関する啓発活動や支援体制の強化が促されるきっかけとなりました。

 そもそもうつ病は、多くの要因が組み合わさって発症します。遺伝的要因、 環境的要因は自分だけの力ではコントロールできない部分もありますが、ライフスタイル要因は自分で意識的に改善できます。まず、毎日同じ時間に寝起きすることで規則正しい生活リズムを整えることが大切です。また、十分な睡眠を確保することは、心の健康に大きな影響を与えます。

 さらに、適度な運動を日常生活に取り入れることが推奨されます。運動はストレスを軽減し、気分を高めるホルモンの分泌を促します。特に、日中に屋外で体を動かすことで、自然光を浴び、うつ病を予防する効果が期待できます。

 食生活も重要な要素です。バランスの取れた食事は、体と心の健康を支えます。忙しい中でも1日3回の食事を摂取し、できれば穀物、タンパク質、野菜のバランスをとることを心がけてください。

 タバコ、アルコール、大麻や違法薬物の使用は避けるようにしましょう。これらは脳内物質のバランスを乱します。

 ストレスはうつ病の発症リスクを高める大きな要因です。日常生活でのストレスを適切に管理するために、リラクゼーションやマインドフルネス、瞑想などのストレス緩和法を取り入れることが効果的です。また、趣味や好きな活動に時間を割くことも、ストレスを軽減し、心の健康を維持するのに役立ちます。

 私が勤務するロンドンドラッグスでは、本社からメンタルヘルス管理を促すEメールが頻繁に届きます。これは、私がカナダで仕事を始めた頃には見られなかった動きです。学校や職場でも、メンタルヘルスに関する相談窓口が増えてきていますから、うつ病の兆候を感じた場合は、できるだけ早くカウンセラーに相談したり、医療機関を受診することを強くお勧めします。

次回はうつ病治療薬のお話です。

*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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