「カナダ“乗り鉄”の旅」第16回 トロント地下鉄、東京メトロ丸ノ内線のように直通運転できない理由は カナダ最大都市・トロント編

トロント交通局(TTC)地下鉄4号線のドンミルズ駅に進入する電車「トロントロケット」(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
トロント交通局(TTC)地下鉄4号線のドンミルズ駅に進入する電車「トロントロケット」(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダ最大の都市、オンタリオ州トロントの都市圏を走るトロント交通局(TTC)の地下鉄1号線の「U字」状になった路線図を左に傾けると、今年10月に株式上場を計画している東京メトロの主要路線「丸ノ内線」に似ていることに気づいた。途中駅を起点とする路線が延びているのも同じだ。ところが、東京メトロ丸ノ内線は中野坂上駅(東京都中野区)で分岐する通称「方南町支線」に直通運転しているのに対し、TTC地下鉄1号線のシェパードヤング駅から分かれている路線を利用するには階段などを使った乗り換えを迫られる。1号線と直通できない理由とは―。

【東京メトロ丸ノ内線】東京メトロの東京都内を走る路線で、池袋駅(豊島区)と荻窪駅(杉並区)を結ぶ本線と、途中の中野坂上駅と方南町駅(杉並区)を結ぶ通称「方南町支線」で構成される。営業キロは27・4キロで、合わせて28駅がある。線路幅は新幹線と同じ標準軌の1435ミリで全線複線になっており、全ての営業電車が各駅停車。
 東京メトロの前身の帝都高速度交通営団が1954年に池袋―御茶ノ水(文京区)間で開業したのを手始めに順次延伸し、62年に全線開通した。現在は2019年に営業運転を始めた6両編成の電車「2000系」を運行している。現在は線路に沿った第三軌条から直流の電圧600ボルトの電気を取り込んで走っており、将来は電圧を750ボルトへ引き上げる。2000系は750ボルト化に対応している。

東京メトロ丸ノ内線の電車2000系(2024年8月21日、東京都新宿区で大塚圭一郎撮影)
東京メトロ丸ノ内線の電車2000系(2024年8月21日、東京都新宿区で大塚圭一郎撮影)

名称は同じ4号線

TTC地下鉄1号線の路線図。4号線は簡単に記されている(2024年2月21日、トロント中心部で大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄1号線の路線図。4号線は簡単に記されている(2024年2月21日、トロント中心部で大塚圭一郎撮影)

 1号線の北東側の終着駅となっているフィンチ駅の二つ手前にあるシェパードヤング駅では、南北に結ぶ1号線と交差するように別の路線が東へ延びている。

 これがTTC地下鉄として最新の2002年に開業した4号線だ。営業距離はわずか5・5キロで計5駅しかなく、TTC最短の地下鉄路線でもある。

 1号線と4号線を組み合わせた路線の形が東京メトロ丸ノ内線に似ていると思っていた私は、分岐している路線の名称なのが「4号線」なのを奇遇に感じた。丸ノ内線の別名は「4号線」なのだ。しかも、線路に沿った第三軌条から直流の電圧600ボルトの電気を取り込んで走っているのも共通している。

 ただし、丸ノ内線の場合は本線と方南町支線の両方とも「4号線」に含まれている。これに対し、TTC地下鉄の1号線と4号線が異なる路線として扱われている。

直通運転できない構造

TTC地下鉄の路線図(太線)。赤い細線は路面電車(TTCのホームページから)
TTC地下鉄の路線図(太線)。赤い細線は路面電車(TTCのホームページから)

 TTC地下鉄の1号線と4号線は路線が異なるだけに、両路線を乗り継ぐ際の利便性も東京メトロ丸ノ内線の本線、方南町支線に比べて劣っている。

 丸ノ内線方南町支線内を発着する電車は、中野坂上駅の同じホームで本線と乗り換えられる構造になっている。しかも一部の電車は、本線の池袋駅と方南町支線の方南町駅を直通運転している。

 一方、TTC地下鉄1号線のシェパードミルズのプラットホームは地下3階にあり、4号線に乗り換えるためにはエスカレーターや階段、エレベーターで上がって地下2階のホームへ行く必要がある。

 4号線と接続している鉄道は1号線が唯一であるため、4号線沿線の通勤客らはシェパードミルズから1号線を使うのが〝王道〟だ。よって、丸ノ内線のように一部の電車が1号線と4号線を直通運転すれば利便性が大きく向上しそうだ。

 だが、1号線と4号線は異なるフロアにホームを設けている構造のため、営業電車を直通運転することは不可能だ。このため4号線沿線に住んでトロント中心部へ向かう通勤客は平日の毎朝と毎夕、シェパードミルズで違うフロアを行き来する羽目になる。

方南町支線の沿線に住んでいた理由

 東京メトロ丸ノ内線方南町支線は一部電車が本線に乗り入れる上、中野坂上で乗り換える場合でも容易なため私は2006~13年に終着駅の一つ手前の中野富士見町駅の近くにある賃貸マンションに住んでいた。中野富士見町の近くを選んだのは、二つの理由で良いと判断したためだ。

 一つ目は、丸ノ内線沿線の賃貸料は比較的高額な場合が多いものの、方南町支線は「本線より利便性が劣るため、本線の近隣地域に比べて月額で1万円程度安い」と聞いたためだ。

 もう一つは、当時は本線と方南町支線を直通運転する電車は中野富士見町駅を発着していたためだ。当時の方南町駅はホームの長さが短く、6両編成の直通運転用の電車が停車するには足りなかった。そこで、直通運転の電車は1駅手前の中野富士見町駅を発着しており、朝のラッシュ時でも始発のため座席を確保しやすいという「うまみ」があったのだ。

 しかしながら、方南町駅のホームが延伸されて2019年7月に池袋駅と方南町駅の直通運転が始まった。この計画を知っていた私は、16年に勤務先のニューヨーク支局から本社経済部へ異動した際に「中野富士見町駅周辺に住む利点が減った」と判断して違う地域でマンションを探した。

勝手に親近感

 もっとも、「TTC地下鉄4号線はまるで東京丸ノ内線方南町支線のようだ」と思い描いている私は勝手に親近感を抱いていた。よって、トロント中心部で乗り込んだTTC1号線をシェパードヤングで下車し、4号線に乗り込んだ。

TTC地下鉄4号線の電車内(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄4号線の電車内(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

 4号線で使っている車両は、1号線と同じく「トロントロケット」(本連載第14回参照)と呼ばれる2011年登場のステンレス製車両だ。ずっと地下を通り、4駅先のドンミルズ駅にわずか8分間で着いた。

 路線が短いことが災いし、TTCによると4号線は2022年秋の平日の1日当たり平均利用者数は3万9482人と低迷している。

 行ける場所も利用者数も限られている4号線は地下鉄を意味する「サブウェイ(SUBWAY)」ならぬ「スタブウェイ(STUB WAY、行き止まり線)」と揶揄されており、沿線住民らの行き場のない気持ちを映し出している。

東へ延伸ならば2路線と接続

 そこでトロント都市圏の公共交通機関を管轄する公社「メトロリンクス」は、4号線を延ばして他の路線と接続させる脱・行き止まり線を目指している。メトロリンクスは四つの延伸案を提示しており、「計画は初期段階」と前置きしているものの4号線を延ばして利用者を上積みしたい考えだ。

 一つ目の案は、ドンミルズ駅から東へ延ばしてシェパード・マコーワン駅(仮称)まで延ばす。計6駅を新設し、二つの鉄道路線と接続する計画だ。

 ドンミルズから4駅目のケネディ駅(仮称)では、メトロリンクスが運行する近郊列車「GOトランジット」と乗り継げるようにする。シェパード・マコーワンでは、延伸工事中のTTC地下鉄2号線のシェパード駅(仮称)と接続させる。

TTC地下鉄2号線のケネディ行き電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
TTC地下鉄2号線のケネディ行き電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

 2号線の現在の東端となっている駅の名称も「ケネディ」だが、ややこしいことに4号線のケネディとは南北に離れている。同名にした場合は利用者の混乱を招きかねないだけに、4号線の駅と接続するGOトランジットの駅名と同じ「アジンコート」と名付けた方が良さそうだ。

 一方、2号線はケネディからシェパードまで北東へ7・8キロ延ばして計3駅を新設することが決まっている。2023年1月にトンネル掘削工事が始まった。

東京メトロ副都心線のように〝直行〟

 二つ目はドンミルズからシェパード・マコーワンまで東へ延ばすとともに、シェパードヤングから西へ延伸する案だ。

 この案がユニークなのは西側の終着駅がシェパードウエスト駅となり、4号線がシェパードヤング、シェパードウエストの両駅で1号線と接続することだ。いわばU字状になった1号線の横串の役割を4号線が果たす。

シェパードヤング駅に滑り込むTTC地下鉄1号線の電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)
シェパードヤング駅に滑り込むTTC地下鉄1号線の電車(2024年2月20日、大塚圭一郎撮影)

 U字状になった1号線は、シェパードヤングとシェパードウエストの両駅を移動するのに1時間弱を要する。ところが、4号線が両駅を東西に結んだ場合にはわずか数分間で到達できるようになる。

 東京の副都心同士である池袋駅と新宿三丁目駅を移動する場合、U字状になった東京メトロ丸ノ内線ならば約35分間もかかるのに対し、南北に〝直行〟する東京メトロ副都心線ならば約10分間で着くのと同じ構図だ。

 4号線のシェパードヤング、シェパードウエスト両駅の間にはバサースト駅(仮称)を設ける計画だ。

大型商業施設の周辺を終着駅とする案も

 三つめの案はシェパードヤングからシェパードウエストへ延ばすのは二つ目の案と同じだが、ドンミルズから東へ延伸する終着駅をシェパード・マコーワンの代わりに大型商業施設「スカーボロ・タウン・センター」の周辺に設ける点が異なる。

 既に工事が進んでいる2号線の延伸では、シェパード・マコーワンの一つ南にスカボローセンター駅(仮称)を設置することが決まっている。4号線も同じスカボローセンター駅に乗り入れさせるという案だ。

 残る一つの案はドンミルズから東へ延ばすだけの計画とする代わりに、終点をシェパード・マコーワンよりも東にあるシェパード・モーニングサイド駅(仮称)とする。延伸区間に新設するのは9駅とシェパード・マコーワン止まりに比べて三つ増えるものの、シェパード・マコーワンの先で他の鉄道路線とは接続しない。

反面教師にしてほしい体験

 四つの案のいずれかが成就するのか、それとも別のプランが今後浮上するのかは定かではない。だが、いずれの案にも含まれているドンミルズから東への延伸を望んでいる通勤客らが多いのは間違いない。

 私は平日の夜間にドンミルズで4号線を下車した後、地上のバスターミナルへ向かうと大勢の帰宅客らがバスの到着を待っていた。利用者は目当てのバスが到着すると、バスターミナルに設けられた扉から慌てて外に出ていく。

 私も乗ることにしたTTC地下鉄2号線の駅に向かう路線番号のバスが来たため、その番号が書かれたバスに乗り込んだ。しかし、バスは明らかに駅があるようには見えない暗闇の停留所に止まり、運転手に「終点だよ」と降ろされた。

 何と路線番号だけを確認して乗り込んだため、反対方向のバスに乗り込んでしまったのだ。TTC地下鉄4号線の延伸計画を決めるのに当たっては事前調査不足の私を反面教師とし、需要予測などを万全にして誤った方向へ行ってしまわないことを祈りたい…。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社デジタルコンテンツ部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年5月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。