カナダ違法漁業監視船が初の日本寄港、ビクトリア母港の「サー・ウィルフリッド・ローリエ」 バンクーバーと姉妹港の横浜港に

サー・ウィルフリッド・ローリエの乗組員と見学者ら(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
サー・ウィルフリッド・ローリエの乗組員と見学者ら(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州ビクトリア港を母港とするカナダ沿岸警備隊の監視船「サー・ウィルフリッド・ローリエ」が横浜港に寄港し、10月2日に報道陣らに公開された。カナダの監視船が日本に入港したのは初めてとなり、横浜港はカナダの主要港となっているBC州バンクーバー港と姉妹港だという縁もある。北太平洋でサケやサンマ、サバなどの違法・無報告・無規制(IUU)漁業が問題化している中で、日本やアメリカなどと連携した水産資源と生態系の保護に向けた監視活動の一環として派遣された。カナダは、インド太平洋地域への関与を強化している。

フカヒレ目当ての密漁を確認

 乗組員が約50人のサー・ウィルフリッド・ローリエは2024年9月4日にビクトリア港を出発し、約7500キロ離れた横浜港に9月30日に入った。10月3日には横浜を出発し、ビクトリアへの帰路に向かった。

 カナダ漁業海洋省によると、北太平洋では1千隻を超える登録済みの漁船が操業している中で、登録していない船舶による料理用のフカヒレを目当てにしたサメの密漁などを確認した。関係国の当局者は「太平洋で確認されているIUU漁業は、中国の漁船による密漁が目立つ」と明らかにした。

横浜港に寄港したサー・ウィルフリッド・ローリエ(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
横浜港に寄港したサー・ウィルフリッド・ローリエ(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 カナダの国旗をイメージさせる白色と赤色で船体を彩り、砕氷船でもあるサー・ウィルフリッド・ローリエは8代目首相から命名された。1986年に建造された船体は全長83メートル、全幅16・2メートルで、最高時速は15・5ノット(1ノット=1・852キロに相当)だ。

サー・ウィルフリッド・ローリエのリチャード・マリオット船長(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
サー・ウィルフリッド・ローリエのリチャード・マリオット船長(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 船内を案内してくれたリチャード・マリオット船長は「もともとは旧型ディーゼル機関車と同じエンジンだったのを最近取り換え、代わりにバイオ燃料や再生可能燃料を混合した燃料を使える動力になった」と説明した。

 カナダで多く採れる菜種「キャノーラ」の油などを燃料に活用しており、カナダが2050年までに温室効果ガス排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ」を目指す中で「沿岸警備隊で屈指のクリーンな船舶となった」と胸を張った。

船長が実感する「温暖化の影響」とは

 動力の更新に合わせ、乗組員が操船を指揮する高さ約14メートルの「船橋(せんきょう、ブリッジ)」のシステムも自動化された。このため船橋で見張りをする乗組員は2~3人にとどまり、触れるだけで操作できるタッチスクリーン画面をチェックしながら船の状況を確認する。

サー・ウィルフリッド・ローリエの船橋(せんきょう)。(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
サー・ウィルフリッド・ローリエの船橋(せんきょう)。(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 ただ、マリオット船長は「砕氷をしながら進む場面では、私が船橋の先頭に立って指揮を執っている」と説明した。サー・ウィルフリッド・ローリエは北極圏の自然環境の変化などを調べる任務にも使われており、日本人研究者らも乗り込んできたという。

 マリオット船長は2000年から北極圏への航海に携わっており、「地球温暖化の影響を実感している」と打ち明ける。最北部のエルズミア島(ヌナブト準州)と行き来している中で「氷がどんどん溶け出しており、かつては流れ着いていなかった北極圏西部でも氷河が見られるようになった」と警鐘を鳴らした。

 船の後部にある甲板には、ベル・ヘリコプター(アメリカ)のヘリ「ベル429」も駐機できる構造だ。

サー・ウィルフリッド・ローリエの船尾には、船名とともに登録地の「オタワ」と記されている(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
サー・ウィルフリッド・ローリエの船尾には、船名とともに登録地の「オタワ」と記されている(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 海を航行する監視船にもかかわらず、船尾には船名とともに、海に面していないカナダの首都名「オタワ」が記されていた。マリオット船長は理由を「カナダでは船舶の登録地を船尾に書いており、カナダ政府がオタワで登録したので『オタワ』の表記になっている」と教えてくれた。

「カナダと日本の緊密な連携が重要」と駐日大使

 IUU漁業を監視するためにカナダは今年夏、高性能カメラを備えた航空機を札幌(新千歳)空港拠点で運航して北太平洋での漁船操業の様子を監視した。この活動には日本と韓国も協力しており、空と海の両方からの監視体制を強化している。

カナダのイアン・マッケイ駐日大使(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
カナダのイアン・マッケイ駐日大使(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 イアン・マッケイ駐日大使は横浜市で報道陣に対して「法の支配に基づく国際秩序がますます脅かされている今、カナダと日本が緊密に連携して自由で開かれたインド太平洋地域を守っていくことが重要だ」と訴えた。

 また、カナダ漁業海洋省のアネット・ギボンズ事務次官は「IUU漁業は世界の生態系に大きな脅威をもたらしている」とした上で、「日本とカナダはサケやサンマなどの両国民にとって極めて重要な水産資源が減少していることを強く懸念している」と指摘。

カナダ漁業海洋省のアネット・ギボンズ事務次官(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
カナダ漁業海洋省のアネット・ギボンズ事務次官(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 水産資源の保護強化に向けたサー・ウィルフリッド・ローリエの日本寄港は「画期的な出来事だ」と強調し、「日本の外務省と水産庁、海上保安庁による支援と協力にお礼を申し上げるとともに、アメリカと韓国の沿岸警備当局の北太平洋での監視活動にも感謝を表明する」と述べた。

船長が明かした乗組員の士気向上策とは

 日本とカナダの両国にとって非常に大切な北太平洋の水産資源の保全のため、今後も監視活動での活躍が期待されるサー・ウィルフリッド・ローリエ。

船橋で乗組員と話すマリオット船長(後列一番左)。(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)
船橋で乗組員と話すマリオット船長(後列一番左)。(2024年10月2日、横浜市で大塚圭一郎撮影)

 マリオット船長は運航する上で「世界で船員不足が起きており、私たちにとっても乗組員の採用と、働き続けてもらうことが最大の課題となっている」と打ち明けた。背景には「若年層の価値観が変わってきており、同じ職種を続けるよりも、多様な職種を経験したがる傾向がある」という。

 そんな中で「横浜を訪れることができたことで、乗組員の士気が大きく高まったよ。私たちの誰もが日本を訪れたがっているからね!」と笑みを浮かべながら語った。

(文・写真:共同通信社経済部次長〈前ワシントン支局次長、元ニューヨーク支局特派員〉・日加トゥデイ連載コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」執筆者 大塚 圭一郎)