髙橋良明総領事インタビュー「日系コミュニティと一緒に盛り上げていきたい」

在バンクーバー日本国総領事館髙橋良明総領事。2024年11月21日、バンクーバー総領事館で。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
在バンクーバー日本国総領事館髙橋良明総領事。2024年11月21日、バンクーバー総領事館で。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 在バンクーバー日本国総領事館・総領事に髙橋良明氏が10月30日に着任した。着任早々に、日系コミュニティの団体を訪問したり、日系リメンバランスデーに参加したりと、活動している。

 着任してまだ3週間と日が浅い11月中旬に、話を聞いた。

バンクーバーの印象

 バンクーバーへの訪問歴については、「10年前にナナイモで会議があって、その際に立ち寄ったことがある」とのことだが、「実際に当地に来てみると、やはり自然と文化の力に圧倒される」とのこと。特に「バンクーバーは自然を『味わえる』場所であることがすばらしい」と語る。

 「当地の自然はあまりに広大で、人間にとっては、恵みであると同時に脅威でもあるように思えます。そういった自然を楽しんだり、味わったりすることは簡単なことではなく、例えば、山に行くにしても、途中までは車を使い、防寒具を着て、食料を持ち、身の安全を確保して初めて、自然の美しさを『味わう』とことができます。人間は自然を『味わう』ためには、自然との間にインターフェースを必要とし、そういったインターフェースを持ち合わせている点で、このバンクーバーはすばらしいと思います」。

 大自然に引かれるのも、以前の任地での経験が関係しているかもしれないという。「世界には、人類が自然を破壊し、戻らなかった国もあれば、そもそも大自然が身近にない国もあります」。

 また、普段の生活の中においても特に木のある暮らしが気に入っている。「この国は木材が豊富で、日本では見たことのないサイズの材木が家具などに使用されています。その重量感が与える安定感が居心地がよく、リラックスできます」。

日系カナダ人コミュニティについて

 「ここに着任して、最も新鮮だったのは日系コミュニティの存在です」。これまで赴任した中で、これだけ大きな日系社会があった国はなかったと振り返る。日系コミュニティの存在は総領事館にとって「とても心強い」。すでに日系の数団体を訪問したと話し、「皆さんカナダ人でありながら、日本文化に最も近いところにいる。カナダにおける最大の日本文化の理解者が身近にいることは大変貴重です」。

バンクーバーの日系コミュニティの存在が新鮮だったという髙橋総領事。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
バンクーバーの日系コミュニティの存在が新鮮だったという髙橋総領事。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 また「日系人の皆さんがとても自信に満ち溢れてることに驚きました。皆さんの内側から、自分たちがこの地でがんばってきたんだという気概が伝わってきます」と言う。「それこそが日系社会の原動力なんだと感じますね」。

 そういった日系カナダ人と是非一緒に日本との関係を盛り上げていきたいと語る。「日加両国はその間には太平洋しかないわけで日本とバンクーバー、ブリティッシュ・コロンビアとの関係は近いと思います。今後、多くの日系人と在留邦人の方と一緒にさまざまな分野での日本との関わりを深めていきたいと思っています」。

日本の文化を違う方面から紹介していきたい

 カナダからの訪日客も増えている中、初めての訪日旅行からもっとマニアックなものまで楽しめるように「日本のトレンド」を積極的にリアルタイムに発信していけたら、と抱負を語る。

 「日本のトレンドは目まぐるしく変化します。これらをリアルタイムに発信すると、日本好きのカナダの人たちにとっても新鮮味を感じられるのではないかと思います」。さらに「また日本を訪れたくなるようなインセンティブをSNSなどで発信することができたら」という。

 トレンドという観点では、日本食もまだまだ紹介しきれていないと感じている。「前任地のシンガポールでもあったのですが、日本の食のトレンドを把握して、例えば、バンクーバーの食材を使いながら日本酒や日本産ワインとのペアリングなども結構受けるかもしれません」。

 2025年はバンクーバー市と横浜市、バーナビー市と釧路市の姉妹都市提携60周年、2026年にはFIFAワールドカップがバンクーバーで開催されるなど、ビッグイベントが続く。「そういう交流の機会は貴重です。お互いの都市協力などにつながる将来性のある話ですから。そのような機会を利用して、食を含めた日本文化を紹介できればありがたいですね」。シンガポールでは、日本の地方の知事のトップセールスで地元の食材を持ってきてシンガポール人に振舞うなどのプロモーションもあったという。

 また、バンクーバーは日系航空会社の直行便が最も多く就航している都市としての強みもあると話す。「日本人にも、もっとバンクーバーも知ってもらって、日本・バンクーバーの往来を活発にしていくために、できる限りのことをしたいと思います」。

2025年にアルバータ州で開催されるG7について

 2025年6月にはアルバータ州カナナスキスでG7サミット(先進国首脳会議)が開催される。「昨年のG7広島サミットでは、気候変動やエネルギー、持続可能な発展、などの従来の議題に加え、『広島AIプロセス』なども開始され、AI にも力を入れていくことが合意されました。気候変動やエネルギーは当地にとっても、非常に重要なトピックスであると考えているので、お互いに共通の分野についてよりその関係を深めていくことは重要であると思います」。その後は、「来年のG7サミットでの結果も踏まえながら、新しい協力関係が構築できればと思っています」。

バンクーバーでの楽しみ発見

「歩くことが好き」という髙橋総領事。バンクーバーでの街歩きも楽しみと話す。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ
「歩くことが好き」という髙橋総領事。バンクーバーでの街歩きも楽しみと話す。2024年11月21日、バンクーバー市。撮影 斉藤光一/日加トゥデイ

 「歩くことが好きなので、いろいろなところを訪れてみたいと思っています。人生の中で、これだけ好条件が揃っている場所に何年間か住むことができるということは、とてもラッキーなことだと思うので、そのアドバンテージを活かしたいと考えています」。

 冬の悪天候もそれほど気にならないと笑ったが、夏になって夜も明るい時期が来れば、もっと楽しみたいと語った。

日系コミュニティへ、総領事館から

 これまでは海外での勤務は大使館勤務のみで、「総領事館で働くのは実は初めてです」という。「総領事館の役割としては、日系社会や在留邦人の皆さんにより使ってもらう組織だと思っています。より近いところで関係性を築けるという意味では我々も館を挙げて、文化面、経済面も含めて、できるだけ皆さんに近い場所にいたいと思っています。改善すべき点など皆さんの要望も聞いていきたいと思います。どうかよろしくお願い申し上げます」。

髙橋良明(たかはし・よしあき)
東京工業大学大学院修士(数理計算科学)、米スタンフォード大学院修士(国際開発政策)
1991年外務省入省、広報文化交流部文化交流課首席事務官、軍縮不拡散科学部国際科学協力室長、領事局外国人課長、大臣官房情報通信課長などを歴任
在オランダ日本国大使館参事官(2007-9)、在アフガニスタン日本国大使館次席公使(2019-21)、在シンガポール日本国大使館次席公使(2021-24)
バンクーバーには妻と2人暮らし、日本に既婚の娘1人

(取材 三島直美/写真 斉藤光一)

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