日本語教師 矢野修三
師走も半ば過ぎ、「今年も残り少なく・・・」こんな挨拶言葉がふさわしい時期になり、あちらこちらで色鮮やかなクリスマスのイルミネーションが目を楽しませてくれる。忘年会など飲み会も重なり、何かと忙しい年の瀬である。
飲み会といえば、カナダに移住してから、ワインを飲む機会が増え、だんだん好きになり、飲み会での、いかにも日本的なスタートの決まり文句、「最初はビールで・・・」が、今では「最初からワインで・・・」に変わってしまった。
そんなワイン好きな上級者と忘年会を行なった。居酒屋風パブで4人、輪になってワインを飲む「輪飲(ワイン)会」のスタート。早速「赤だ、白だ」と、いろいろワイン談義が始まり、特にS君はワイングラスの持ち方などにも結構うるさい。
そこで、この機会にワイングラスの「数え方」を話題にした。先ず、日本語ではどんな数え方をすると思うか、聞いてみた。すると「1個、2個」ですね。でも「1つ、2つ」かも、また「1本、2本」も・・・などいろいろな意見が出たが、何か特別な「数え方」がありそうですね。さすが、なかなか察しがよろしい。
早速、ワイングラスを片手に、勉強会を始めた。先ず、「1本、2本」は、うーん、気持ちはよく分るが、残念ながらワイングラスには使わない。でも「1個、2個」や「1つ、2つ」はどちらも使われており、全く問題ない。
しかしながら、正式な数え方は・・・、ワイングラスの細長くなっていて、手で持つ部分、英語ではステム(stem)だが、日本語では「脚」。この漢字の音読みは「キャク」、訓読みは「あし」であり、格式高い店などでは、「1脚(きゃく)、2脚(きゃく)」と数えるよ、と説明した。
すると、なるほど、と感心しきり。加えて、お客さまに出すグラスの場合は「おもてなし精神」を発揮して「お客」の「客」を使い、「1客、2客」と数える場合もあると補足したら、びっくり。
さらに、ワインが入っているグラスは中身、つまり「飲み物」に焦点を当てて、「1杯、2杯」と数える場合もあり、と告げると、英語では考えられず、ちんぷんかんぷん。確かに、こんなこと生徒に教える必要はないが・・・、状況に応じて使い分ける日本語ならではの細かな表現方法。
そこで、おまけにこんな話もつけ加えた。日本ではそろそろ年賀状を準備する時期。でも最近はSNSなどの影響もあり、年賀状離れがかなり進んでいるようでさびしい限りだが、この年賀状の「数え方」である。
間違いなく、買うときは「1枚、2枚」と数えるが、お正月に友達から届いた年賀状は、日本人はさり気なく、「1通、2通」と数えたくなる。それはお互いの心が通じたから「通」を使うんですよ、と講釈を垂れると、すごい、すごいの連発。教師として、ほんわか気分に。
こんな話をしていたら、ワインもかなり進んだ。そしてS君曰く、茶目っ気たっぷりに「脚の長いワイングラスを二脚買って、脚の長い彼女とボジョレーヌーボーが飲みたいです」、さらに「日本語って本当に奥が深いですね。ワインと同じように」と、締めの挨拶。奥が深い忘年会であった。
「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano@yanoacademy.ca
ホームページ:https://yanoacademy.ca