『Anora(邦題:アノーラ)』(ショーン・ベイカー監督)

 アカデミー賞の授賞式が3月2日に迫ってきました!今年はアリアナ・グランデが出ているミュージカル『Wicked(邦題:ウィキッド)』(ジョン・M・チュウ監督)やセレナ・ゴメスがスペイン語で頑張った『Emilia Pérez(邦題:エミリア・ペレス)』(ジャック・オーディアール監督)、ティモシー・シャラメがボブ・ディランを演じた『Complete Unknown(邦題:名もなき者)』(ジェームズ・マンゴールド監督)などもノミネートされており、レッドカーペットは例年にも増してかなり華やかなものになりそうですね。

「The Substance」より。提供TIFF
「The Substance」より。提供TIFF

 俳優賞では男優陣よりも女優陣が混戦模様。なかでも賞レースのトップを走っているのが、デミ―・ムーア。62歳にして『The Substance(邦題:サブスタンス)』(コラリー・ファルジャ監督)で初ノミネート。体当たりな演技でハリウッドの若さと美への執着を鋭く風刺しています。そして『I’m Still Here(邦題:アイム・スティル・ヒア)』(ウォルター・サレス監督)のフェルナンダ・トーレス。夫がブラジルの軍警察に逮捕され行方不明となったユニス・パイヴァを演じ、その圧巻の演技力が高く評価されています。

「I’m Still Here(邦題:アイム・スティル・ヒア)」より。写真提供:TIFF
「I’m Still Here(邦題:アイム・スティル・ヒア)より」。写真提供:TIFF

 そしてもう一人主演女優賞の有力候補が、今日ご紹介する『Anora (邦題:アノーラ)』(ショーン・ベイカー監督)で主演のマイキー・マディソン。同作はカンヌ映画祭で最高賞を取って以来ずっと話題で、今回も作品賞、監督賞など6部門にノミネート。私としては作品賞や監督賞は他にあげたいけれど(苦笑)、全身全霊を捧げた演技で魅了してくれたマイキーは主演女優賞を取れるかも、などと思っています。

 あらすじ:ストリップクラブでダンサーとして働くアニーことアノーラ(マイキー・マディソン)。ある夜、若くリッチなロシア人の客イヴァン(マーク・アイデルシュタイン)が来店。すっかりアニーを気に入り1万5千ドルで1週間ずっと一緒に過ごす契約を結ぶことに。パーティー三昧の中、プライベートジェットで行ったラスベガスで盛り上がった二人は、なんと衝動的に結婚。怒ったイヴァンの両親が婚姻無効を求めて手下たちを送り込み…というストーリー。

「Anora (邦題:アノーラ)」より。写真提供:TIFF
「Anora (邦題:アノーラ)」より。写真提供:TIFF

 現代版シンデレラ?プリティ・ウーマン?と思って観たら、ロマンティックとは程遠いかなりコメディ要素の多い作品でした。ストリップクラブのシーンから始まり、ただパーティー!な前半とハラハラ、ドタバタしながら進む後半。性産業に従事する女性を描いているけれど暗くはならずにあっけらかんとした感じで進み、とにかく最後まで明るくパワー全開で話が進みます。

 これまでの作品では、社会の片隅で生きる人々を繊細な眼差しで描いていたのが印象的だったベイカー監督。でも今回の『アノーラ』ではコメディのためか、アニーもイヴァンの両親に雇われている男たちも、人物像に深みが無く私としてはそこがすごく残念でした。アニーのバックグラウンドとか人となりがもう少し描かれていればキャラクターや環境が深く理解できたのに、と物足りなさも。アニーが元気なのとイゴールが良い奴、大富豪が冷たいのはわかったけど、それだけというか。なので監督の今までの作品とは少し違って、かなりエンタメ性の高さに振り切った作品だなという印象です。

 ただ役者さんたちの演技は皆すごく良くて、ストリップクラブにも通い役作りをしたマイキーが深く物事を考えないけどチャーミングなアニーを熱演しているし、ダメダメ御曹司のイヴァン君もロシア男三人組も皆すごく良い味を出していて最後まで楽しませてくれます。ちなみに、無口で良い奴キャラのイゴールを演じたユーリー・ボリソフも今回助演男優賞にノミネートされています。

 …最後に、今年のアカデミー賞にノミネートされている作品のなかで作品賞と脚色賞にノミネートされている『Nickel Boys(ニッケル・ボーイズ)』(ラメル・ロス監督)という私のイチオシ作品があります。地味ながらすごく考えさせられる衝撃的な映画なので機会があればご覧になってみてください!

Lalaのシネマワールド
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バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライターLalaさんによる映画に関するコラム。
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Lala(らら)
バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライター
大好きな映画を観るためには広いカナダの西から東まで出かけます
良いストーリーには世界を豊にるす力があると信じてます
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