終活は新しい大人のマナー
叶多範子
早春の候、皆様いかがお過ごしでしょうか。バンクーバーでは、日に日に陽射しが柔らかくなり、木々の芽吹きが感じられる季節となりました。海外での生活に慣れるにつれ、「いつか」と先送りにしがちな終活のお話を、今日は少し違った視点からお伝えします。
先日、ある方たちからこんなメッセージをいただきました。「終活と聞くと、なんだか大変なことのように思えて、なかなか踏み出せません」「正直、終活にお金も時間もかけたくないって思ってしまうんです」と。この声は、おそらく多くの方が共感されるのではないでしょうか。
「終活」=時間とお金がかかる その思い込み、今日で終わりにしませんか?最小限の準備で、最大限の安心を。
終活というと、断捨離、エンディングノート、遺言書、お墓の準備など、やるべきことがリストとして頭に浮かび、その量に圧倒されてしまうかもしれません。特に海外在住者にとっては、「日本とこちらのどちらで準備すべきか」という悩みも加わり、さらにハードルが高く感じられる人もいるようです。
しかし、本当に必要な「核」は意外にシンプルです。
1.法的書類(遺言・委任状) 海外在住者にとって、日本と居住国の法律が絡み合う遺言書の作成は一見複雑に思えます。しかし、居住国の法律に則った形で基本的な遺言書を用意するだけでも、残された家族の負担は大きく軽減されます。
また、万が一の時のための委任状(Power of Attorney)も重要です。財務の決定権を信頼できる人に託す書類を準備しておくことで、もしものときの安心感が生まれます。
2.エンディングノート 法的拘束力はありませんが、自分の希望や思いを自由に書けるエンディングノートは、残された人々への大切なメッセージとなり、尚且つ、将来もしも認知症になったときには自分の取扱説明書(取説)になります。デジタル資産の管理方法、されて嫌なこと、苦手なこと、医療や葬儀の希望など、簡潔に記しておくだけでも、家族や医療関係者が迷うことなく進めることができます。
この2つの土台があれば、あとは人生を思う存分楽しむだけ。
終活の本質は、実は「生活」です。残された時間を大切に生きるための準備であり、不安や心配を取り除くことで、より自由に生きる手助けとなります。
断捨離や墓じまいなどその他のことは、人生を楽しむ過程で、必要性を感じたとき、タイミングが来たときの選択肢としてください。
先日、長年カナダで暮らすSさんはこう語ってくれました。「遺言書と委任状を作り、エンディングノートに基本的なことを書いておいたら、不思議と心が身軽になりました。今は旅行に行ったり、新しい趣味を始めたり、何かに挑戦することになっても、もしものときの心配や不安がなくなり、積極的にどんどんできるようになった」と。
終活は終わりのための活動ではなく、より豊かに生きるための準備です。最小限の準備で最大限の安心を得て、その先の人生を思う存分楽しむ。それこそが、私が提案する「海外終活」の真髄です。
私たち海外在住者は、移住という大きな決断と挑戦を経験してきました。みなさんのその勇気と行動力を、終活にも活かしていただきたいと切に願っています。異国の地で新しい生活を築いたように、終活も新たな一歩として捉えれば、意外とシンプルで、むしろ人生を豊かにする活動だと気づくはずです。
これまで自分の意思で人生を切り開いてきた皆さんが、人生の最後だけ何も準備せず人任せ、成り行き任せになってしまうのは、あまりにも残念なことです。海外で築き上げた豊かな人生が、準備不足のために混乱と後悔の中で幕を閉じる—そんな事例を数多く目の当たりにしてきました。特に海外在住者の場合、準備がないと家族は二重三重の困難に直面します。あなたの大切な人たちに、そんな重荷を背負わせたいでしょうか?また認知症になった自分に適切なケアがされないでいいのでしょうか?
日本とは異なる制度や文化の中で暮らす私たちだからこそ、「最低限何が必要か」を今すぐ見極める必要があります。複雑な終活をシンプルに捉え直し、必要最小限の準備から始めることで、かえって効果的な終活が実現します。時間はいつも思うより少ないのです。
今日から、あなたも小さな一歩を踏み出してみませんか?まずはエンディングノートを手に取るところから。最初の小さな一歩が、未来の安心につながっていきます。明日ではなく、今日が、その一歩を踏み出すべき日であって欲しいと思います。
*このコラムは終活に関する一般的な知識や情報提供を目的とするものです。内容の正確さには努めておりますが、必要に応じてご自身で確認、または専門家へご相談ください。このコラムを元にして起きた不利益は免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。
叶多範子(かなだ・のりこ)
グローバルライフデザイナー
2015年、友人の孤独死と相続問題をきっかけに、カナダのバンクーバーで遺言・相続専門の弁護士アシスタントとしてキャリアをスタート。2020年には終活アドバイザー資格を取得し、終活の視点を取り入れた知識と実務経験を活かしたノート術とコンサルティングを提供しています。
「終活せずに困った!」という後悔の声を「やってて良かった」「ありがとう」と笑顔で未来を彩ることをライフワークとしており、これまで300名以上に国境を越えた安心感を届けています。国内外問わず、すべての人が大切な未来をデザインできるようサポートしています。 家族はカナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。日々の活動や最新情報は、メルマガ、ブログ、SNSで発信中。
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