「Nickel Boys (邦題:ニッケル・ボーイズ)」ラメル・ロス監督

Photo courtesy of Amazon MGM Studios
Photo courtesy of Amazon MGM Studios

 やっと寒さも和らぎ春が近づいてきましたね。私の住んでいるバンクーバーエリアでは只今Spring Break(春休み)の真っただ中。近所の公園やデイケアからは一日中子どもたちのにぎやかな声が聞こえてきます。子どもたちが何の心配もなく笑っていられる世界ってそれだけで幸せなこと。当たり前に思わず、うるさいとも思わず(笑)ずっと続くように大切に守っていきたいですね。

 今回ご紹介するのは2025年アカデミー賞で最優秀作品賞と脚本賞にノミネートされた「Nickel Boys(邦題:ニッケル・ボーイズ)」(ラメル・ロス監督)。ピューリッツァ―賞を受賞したコルソン・ホワイトヘッドによる同名小説を原作とした作品で、実在した少年矯正施設をモデルに、少年たちが直面する不条理な差別や暴力、そのなかで育む友情や正義を求める心を描きます。

あらすじ:物語の舞台は1960年代、ジム・クロウ時代のフロリダ州。貧しいけれど優しい祖母に愛されて育ったエルウッドは、キング牧師に影響を受けた理想主義的な少年。正しいことを真っ当に頑張れば未来は開けると信じている。そんなエルウッドがカレッジでの新しい生活を始めようとしていた矢先、無実の罪で少年矯正施設「ニッケル・アカデミー」に入れられてしまいます。そこで出会ったのがターナー。彼は少年ながらも社会のシステムや残酷さを理解しており、その中で生き残るしかないと冷めた考えを持つ現実的なタイプ。対照的な二人は施設での厳しい日々のなかで少しずつ友情を深めてゆきます。

 まず、この映画で特筆すべきなのはエルウッドの一人称視点(POV)で進められる映像。初めは少し戸惑ったのですが、彼の感情や彼が見ている世界、おばあちゃんの優しさとか施設での環境などをそのまま体感することができて、すごい手法だなと思いました。途中視点が切り替わるのですが、その視点の移り変わりの意味が明らかになった時のショックと言ったら…!!これはもう観て体験していただければと思います。

 映像は全体を通してノスタルジックな感じで美しく、だからこそこんな美しい世界で子どもたちは絶望を感じていたんだ、と余計に胸に刺さります。映画の全編を通して描かれている歴史的背景と個人的なストーリーのバランスも絶妙で、忘れるべきではない過去の事実を少年たちの物語の中に織り込んで、現代社会にも通じている様々な問題を考える機会を与えてくれます。

 テーマは重めだし映画館での上映は限られていたにも関わらず、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞でノミネートされ、国際映画批評家協会賞やトロント映画批評家協会賞では最優秀賞を受賞するなど高く評価されたこの作品。静かだけど力強い映画でした。

 カナダではAmazon Prime Videoで配信中です。

Lalaのシネマワールド
映画に魅せられて

バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライターLalaさんによる映画に関するコラム。
旬の映画や話題のドラマだけでなく、さまざまな作品を紹介します。第1回からはこちら

Lala(らら)
バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライター
大好きな映画を観るためには広いカナダの西から東まで出かけます
良いストーリーには世界を豊にるす力があると信じてます
みなさん一緒に映画観ませんか!?