日本一の鉄道旅行に昭和時代の雰囲気満喫の夜行列車 2024年度の鉄旅オブザイヤー

鉄旅オブザイヤー2024年度の受賞者と関係者。前列一番左が吉川正洋さん、2人目が久野知美さん、4人目が鉄旅オブザイヤー実行委員会の小谷野悦光委員長(日本旅行社長)、一番右がホリプロの南田祐介マネージャー。筆者は最後列の一番右(鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)
鉄旅オブザイヤー2024年度の受賞者と関係者。前列一番左が吉川正洋さん、2人目が久野知美さん、4人目が鉄旅オブザイヤー実行委員会の小谷野悦光委員長(日本旅行社長)、一番右がホリプロの南田祐介マネージャー。筆者は最後列の一番右(鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)

 国内の魅力ある鉄道旅行商品を表彰する2024年度の「鉄旅オブザイヤー」の授賞式が25年4月16日に鉄道博物館(さいたま市)で開催され、最高賞のグランプリは昭和時代の雰囲気を満喫できる旧型ディーゼル車両で一晩を過ごす読売旅行などのツアーに輝いた。茨城県の第三セクター鉄道「ひたちなか海浜鉄道」の引退を控えていた1965年製の車両「キハ205」を2024年10月に貸し切り運行し、「最初で最後の夜行列車」と銘打って走らせたり、夜間の車両撮影会を実施したりと鉄道ファン目線に徹したのが評価された。

2012年8月、ひたちなか海浜鉄道を走るキハ205(奥)とキハ222を連結した列車。既に引退している(茨城県ひたちなか市で大塚圭一郎撮影)
2012年8月、ひたちなか海浜鉄道を走るキハ205(奥)とキハ222を連結した列車。既に引退している(茨城県ひたちなか市で大塚圭一郎撮影)

グランプリは「即日完売」

 鉄旅オブザイヤーは旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、後援にJR旅客6社全てと日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要団体がそろう「鉄道旅行のオールスター戦」となっている。2011年度から毎年実施しており、第14回となった24年度は旅行会社のツアーを対象にした旅行会社部門に前年度より20件増の85件の応募があった。

授賞式で紹介された10人の外部審査員(大塚圭一郎撮影)
授賞式で紹介された10人の外部審査員(大塚圭一郎撮影)

 筆者を含めた計10人の外部審査員が、旅行のプロとしての企画力が感じられるか、独創性、乗車する列車や路線の魅力度などを60点満点で採点して主要4部門賞を選出。ともに鉄道好きで知られるフリーアナウンサーの久野知美さん、お笑い芸人「ダーリンハニー」の吉川正洋さんが司会を務める授賞式で、企画担当者らがツアー内容や参加者の反響などを説明するプレゼンテーションを実施した。それも踏まえた上で、当日の決選投票でグランプリを選んだ。

グランプリの受賞者。左から4人目が読売旅行の武藤友輝さん、5人目がひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長(大塚圭一郎撮影)
グランプリの受賞者。左から4人目が読売旅行の武藤友輝さん、5人目がひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長(大塚圭一郎撮影)

 グランプリのツアーは主要4部門賞のうち、鉄道愛好家向けの旅行が対象の「鉄ちゃん部門賞」も受けた。参加代金は2万5千円と比較的高額だったものの、2回で計44人を募集して「即日完売」する人気ぶりだった。

 少子高齢化による利用者の減少などを背景に地方鉄道の業績は総じて厳しく、第三セクター鉄道等協議会に加盟する三セク鉄道41社のうち2023年度の経常損益が赤字だったのは37社で経常損失額は計約86億円に上った。

 ひたちなか海浜鉄道は経営環境が厳しい中でも最終列車の繰り下げなどの営業努力で業績を改善させており、終点の阿字ケ浦から国営ひたち海浜公園の近くへ30年以降に順次延伸する計画だ。企画した読売旅行の武藤友輝さんは受賞について「(茨城県)ひたちなか市の皆様とこれまで連携して取り組んできた集大成としてこのような栄誉ある賞を頂けたことを感謝しています」と謝意を述べた。

電車内でジャズ鑑賞も「3つの誤算」

 団体旅行を対象にした「エスコート部門賞」は、小・中学生を対象とし、静岡県・伊豆半島を走る伊豆急行に乗車して謎解きやクイズに挑戦した東急スポーツシステムなどのツアーが受賞した。

「エスコート部門賞」を受けた東急スポーツサービスの横田亮さん(右、大塚圭一郎撮影)
「エスコート部門賞」を受けた東急スポーツサービスの横田亮さん(右、大塚圭一郎撮影)

 授賞式では筆者の「全国屈指の保養地の静岡県・伊豆半島でくつろぎながらも伊豆急行の鉄道職場を体験し、参加した小・中学生で力を合わせてクイズや謎解きに挑戦するなど学ぶことが多く、内容が盛りだくさんのぜいたくなツアーです。スマートフォンやゲーム機といった『デジタル』や『バーチャル』を娯楽だと捉えがちな子どもたちが親元を離れ、リアルで経験することの魅力を体得し、自立心を養うこともできる意義は大きいと確信しています。『子鉄』の父親の1人として、適齢期だったら是非とも送り出してあげたい企画だと受け止めています」というコメントが紹介された。

 個人旅行の「パーソナル部門賞」には、名古屋都市圏を走る愛知環状鉄道の貸し切り電車内でジャズの生演奏を鑑賞する名鉄観光サービスの商品「岡ジャズトレインジャズ鑑賞」が輝いた。企画した名鉄観光サービスの二橋朋美さんは「実は3つの大きな誤算があった」と打ち明け、1つは愛知環状鉄道の1日乗車券やグッズも付けて参加代金を6500円に抑えたものの当初は集客に苦戦したこと、2つ目は便所がない通勤電車を使ったため途中駅でトイレ休憩の時間を設けたものの駅の設備に難があったことだと説明。

「パーソナル部門賞」を受けた名鉄観光サービスの二橋朋美さん(右から2人目、大塚圭一郎撮影)
「パーソナル部門賞」を受けた名鉄観光サービスの二橋朋美さん(右から2人目、大塚圭一郎撮影)

 残る1点は「終了後に参加者から『とても楽しかった』『これで6500円ならば安いよ』などと満足してもらえる『うれしい誤算』だった」とし、2025年にも「是非催行したいと思っています」と意気込んだ。

寿司職人が乗り込んだ観光列車

 JR旅客6社と自治体が実施している大型観光企画「デスティネーションキャンペーン(DC)」の開催地を訪問する「DC賞」には、富山県の第三セクター鉄道「あいの風とやま鉄道」の観光列車「一万三千尺物語」を普段は運行していない石川、福井両県に乗り入れさせた日本旅行のツアーが輝いた。

「DC部門賞」を受けた日本旅行の担当者(左から4、5、6人目)
「DC部門賞」を受けた日本旅行の担当者(左から4、5、6人目)

 参加代金2万5千円で冨山、金沢、福井各駅を出発する3つのコースを用意し、募集人数の4倍弱に当たる計449人が応募。日本旅行の担当者は「北海道から沖縄県まで全国から応募があった」と明らかにした。

 うち富山駅を出発するコースでは寿司職人が列車に乗り込み、富山県特産の白エビなどの寿司を握るなどこだわった昼食も高く評価された。

 4部門賞以外では、クラブツーリズムの「がんばろう 能登半島復興応援ツアー 旅して応援『想い』をつなぐ能登半島 2日間」が「国土交通省鉄道局長賞」を受賞。「審査員特別賞」は、クラブツーリズムの「現地ガイドと行く!北海道さいはての未成線と廃線跡をたどる3日間」が選ばれた。

「国土交通省鉄道局長賞」を受賞したクラブツーリズムの企画担当者(右から2人目、大塚圭一郎撮影)
「国土交通省鉄道局長賞」を受賞したクラブツーリズムの企画担当者(右から2人目、大塚圭一郎撮影)
「審査員特別賞」に決まったクラブツーリズムの担当者(中央)ら(大塚圭一郎撮影)
「審査員特別賞」に決まったクラブツーリズムの担当者(中央)ら(大塚圭一郎撮影)

 一方、「夢の鉄道旅行企画」を募集する一般部門には前年度より25件増の67件の応募があり、「ベストアマチュア賞」には神奈川県在住の公務員、牧野隆さんの企画「瑠璃紺色に輝く夜行列車を降りると★未来であった大阪万博タイムトラベル 2泊3日の旅」が選出された。

(文・写真:共同通信社経済部次長〈前ワシントン支局次長、元ニューヨーク支局特派員〉・日加トゥデイ連載コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」執筆者 大塚圭一郎)

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