A Future for Memory:
Art and Life After the Great East Japan Earthquake
記憶のための未来 ― 東⽇本⼤震災後のアートと暮らし MOA
担当キュレーターによるツアー
ブリティッシュコロンビア大学人類学博物館(MOA)で現在、『A Future for Memory: Art and Life After the Great East Japan Earthquake(記憶のための未来 ― 東⽇本⼤震災後のアートと暮らし)』が開催されている。(1月25日付けバンクーバー新報記事「MOAで震災後のアートと暮らしをテーマに展覧会」)
東日本大震災発生から10年となる3月11日には、同展覧会担当キュレーターの中村冬日(ふゆび)さんがオンラインツアーを行った。Zoomを用いたイベントであったことから、カナダはもちろん日本、さらにはタイやオーストラリア、ブラジルなど世界中から参加した。
「展覧会のきっかけはキュレーターの被災地での個人的体験です。2011年5月から8月まで、被害の大きかった宮城県の3カ所でボランティアとして救援や復興支援活動に携わりました」と中村さんは述べた。この経験をきっかけに、記憶とモノのつながりを見つめなおすようになったという。
「大震災で思ったことは、自然の圧倒的な力です。破壊的でもあり癒しでもあり、その自己再生力は目を見張るほどです」と指摘する。そして参加者に「自然の力、そして自然と共存していく人々の適応能力から、私たちは何を学んできたのでしょうか」と問いかけた。
ツアーでは、中村さんは出展している人たちの言葉を使って、作品を紹介した。
華道家の片桐功敦さんは南相馬に居を移して、約1年に渡って住み続けた。その間、被災地に出向いて花を摘み、現場に落ちているがれきを花器として花を生け、その場をカメラで収めた。写っているのは目を覆いたくなるような被災地の様子だ。しかし、そこには片桐さんが生けた花がある。
南相馬市博物館学芸員の二上文彦さんは、片桐さんの南相馬での、そして「記憶のための未来」展の協力者の1人でもある。片桐さんの作品の展示は南相馬市博物館でまず開催された。
当初、片桐さんの作品を見たら、被災した人たちが気分を害するのではないかと二上さんは気がかりだったという。しかし、作品を見た人たちから、「がれきとは呼ばれているが、それはかつては私たちの大切なものだった。ゴミではなく花器として扱ってくれてありがとう」と感謝の言葉を受けたという。
作品ツアー後に行われたQ&Aでは、パンデミックの中、いかにして展示物を日本から送ったかの質問もあった。データで受け取って、カナダで印刷したものもあるが、特に「失われた街」模型復元プロジェクトの模型は神戸大学准教授の槻橋修さんが教える大学生らが、細かいパーツに番号をつけるなど細心の注意を払って送られた。
そのほか、被災地の現在の様子についての質問には、海岸付近の住宅を建てるのは危険とみなされているような場所にはメモリアルパークができて、震災のことを後世に伝えていると回答していた。
オンラインイベントは終了したが、ツアーはYouTubeで視聴可能。
東日本大震災10周年:「記憶のための未来」展
担当キュレーターによるオンラインツアー
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「記憶のための未来」展
日程
2021年2月11日~9月5日
場所
Museum of Anthropology University of British Columbia(MOA)
6393 NW Marine Drive, Vancouver, BC
博物館での展示を見るには、事前にオンラインで時間制チケットの購入要。
https://moa.ubc.ca/moa-re-openingnew-procedures-for-a-safe-visit/
ウエブサイト
moa.ubc.ca
出展者
- 岡部昌生(広島と福島で被爆した樹木を用いた作品)
- 港千尋(制作中の岡部氏の写真とビデオ)
- 片桐功敦(華道家。南相馬で活けた花の写真)
- リアス・アーク美術館(気仙沼市の美術館が写真を出展)
- Lost & Found Project(被災写真)
- 「失われた街」模型復元プロジェクト(失われた街や村を1/500の縮尺の模型で復元し、地域に育まれてきた街並みや環境、人々の暮らしの中で紡がれてきた記憶を保存・継承)
- 3がつ11にちをわすれないためにセンター(東日本大震災とその復旧・復興のプロセスを独自に発信、記録していくプラットフォーム。17の映像)
- 「津波レディース」製作委員会(ドキュメンタリー映画)
キュレーター : 中村冬日博士
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(取材 西川桂子)
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