YWCAの日本語アウトリーチワーカーの加瀬広海さんに聞く2
在バンクーバー日本国総領事館が2017年に開設した「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」を担当しているYWCAの日本語アウトリーチワーカーの加瀬広海さん。
ホットライン対応に加えて、家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス、以下「DV」)を受けている女性とその家族が、DVから逃れて新たな生活を始めるためのYWCAの住宅モンローハウスで入居者の支援も行っている。
加瀬さんに、モンローハウスをはじめYWCAが提供するサービス、カナダと日本の離婚に関する法律上の違い、さらにメトロバンクーバーに住む日本人女性を取り巻くDVの状況、ハーグ条約批准後の日本人の母親をめぐる状況などについて聞いた。
シリーズでその内容を紹介していく。2回目は日本とカナダの離婚制度の違いについてなど。
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– カナダで行われた2016年の国勢調査で、事実婚の割合が1981年と比べても3倍と増えているそうです。カナダでの婚姻の傾向が変化するにつれ、事実婚でカナダに移民する日本人も増えているように感じています。
カナダの場合は婚姻届けを出して結婚しようが、事実婚であろうが扱いはあまり変わりません。日本とは結婚と事実婚、それから離婚と別居についての制度が違います。
日本語アウトリーチプログラムにも、離婚したいと相談に来られる方がたくさんいらっしゃいます。
カナダでは1年の別居、もしくは家庭内暴力(DV)あるいは不貞行為があったことが、離婚の条件となっています。したがって1年別居さえすれば離婚できると思っている方が多いです。
でも必ずしもそうではありません。カナダの親権は基本的には共同親権ですが、それ以外にも親の責任(Parental Responsibility)、面会交流(Parenting Time)、養育費など全てが決まっていないと、何年別居しても離婚はできません。
離婚はお金がかかります。日本と違い、離婚せずに別居のままでもさまざまなサービスが受けられるので、別居のままでもいいのですが 気持ち的またはケジメとして正式に離婚したいという方もいらっしゃいます。
– 日本とカナダとの制度の違いについて教えてください。カナダは基本的には共同親権ですよね?
はい。でも共同親権と「プライマリーケアギバー(Primary Caregiver)」というのは違います。
共同親権というと子どもを半分お父さんに預けなければいけないと思う方もいらっしゃいます。後見・ガーディアンシップ(Guardianship)と親の責任(Parental Responsibility)は父親と母親の共同が普通ですが、子どもと親が暮らす割合についてはさまざまです。
– 20年ぐらい前は平日はお母さんが子どもの面倒をみて、週末はお父さん…という話をよく聞きました。でも、お母さんも週末に子どもと遊びたいということで、そういう分け方をせず、月曜から日曜まで一週間お父さんと一緒にいて、次の一週間はお母さんと、一週間交代で子どもと生活する取り決めをしているケースもありますよね。
あとは平日、学校に行く日だけお母さんと暮らして週末はお父さんのところに行くというケースもあります。その場合、「早く寝なさい」「宿題しなさい」と言うのがお母さんで子どもにとって「うるさい」ことをいうのが往々にして母親になってしまいます。週末一緒に過ごすお父さんは楽しいことばかりということになっています。
ただし、平日、子どもの世話ができないお父さんもいるわけですし、週末はお父さんでいい場合もあります。ケースバイケースで決めるのがいいでしょうね。
別れたのに元の鞘に収まるケースも
加瀬さんがDVの被害に遭っている女性をサポートをしていて、一度、別れても、またパートナーの元に戻るケースもあるという。
– DVに耐え切れず、一度、別れても、またパートナーの元に戻るのですか?
バンクーバーは家賃や生活費がとても高いですよね。経済的な問題でいったんは元の鞘に収まる、でも結局、耐えきれずにまた別れる…そういう方もいらっしゃいます。
経済的な理由だけでなく、感情的にも一度できっぱりと別れられるケースは少ないです。何回も行ったり来たりすることもよくあります。別れたり、よりを戻したりを何度もしながらようやく別れられるという人が多いです。
その上必ずしも別れてすぐにバラ色の人生が待っているわけではありません。裁判、訴訟関係でさらに嫌がらせをされる、アビューズされるケースもあります。別れると経済的に大変なことになるかもしれない。住む場所に困るかもしれない。
でも別れた人たちの多くは「毎日顔を合わせてビクビクした生活から解放されて少し気持ちが楽になった」とおっしゃいます。
離婚と子どもの年齢
別居・離婚するかどうかの決断は、子どもの年齢や子どもの有無に関係することもあります。リサーチをしたわけではありませんが、子どものいない方のほうが別居・離婚を躊躇することが多いような気がします。
子どもがいると、子どもに苦労させたくないので離婚しないというケースもありますが、それ以上に子どもがいない場合、自分さえ我慢すればいいと別れずにいる方もいらっしゃいました。
また、子どもがいて別れる場合、子どもがプリティーンとかティーンエイジャーだったり、あるいはその年齢に達した時に、今度は子どもの家庭内暴力の問題が出てくることもあります。夫と別れて夫からのDVからやっと逃れられたというのに…と、いずれにしても簡単な解決方法はありません。
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「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」は、在バンクーバー日本国総領事館がYWCAに業務委嘱していて、BC州とユーコン準州に住む日本国籍を有する女性を対象に、無料での相談、関係機関(裁判所、警察、弁護士事務所、法的支援機関、病院、生活保護など)への同行、諸手続きの支援、通訳を受けることができる。
ホットライン:604-209-1808(月~金 午前9時~午後5時、祝祭日を除く)
(取材 西川桂子)
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