~認知症と二人三脚 ~
ガーリック康子
ある日突然、親の介護の責任が降りかかってきたら、どうしますか?
多くの場合、介護は事前の準備も、場合によってはその知識もないまま、急に始まります。介護が始まれば、試行錯誤を重ねながら、一日一日をこなしていくしかありません。それまでの家族関係により、家族が協力しながら介護ができる場合もあれば、相談者もおらず、ひとりで抱え込んでしまう場合もあるでしょう。
例えば、高齢で介護が必要になった親は70代か80代。その子供は、おそらく40代か50代でしょう。この年代は働き盛りで、収入が増える時期でもあります。おそらく子育ても一段落し、自分も歳を重ね、老後に備えて貯蓄をしている時期です。
正社員で働いている人の場合、「介護休暇」や「有給休暇」を利用して、何とか仕事と介護を両立させることはできるかもしれません。しかし、介護が長期化すれば、その大変さから仕事との両立が難しくなり、介護に専念するために、止むを得ず離職を選択する。そのようなケースも増えているようです。介護は永遠に続くわけではありませんが、介護をする原因となった心身の障害や病気により、長丁場になることもありえます。そして、仕事を辞めてしまえば、収入源が大幅に減少することは明らかです。
正社員で働いていた場合、仕事を辞めてしばらくの間は、「失業手当」に頼ることができます。しかし、給付期間が終わると、そこで定収入は途絶え、収入源は介護する親の「年金」のみになります。病気や怪我での入院費のような臨時の支出があり、その費用が「年金」で賄えなければ、貯蓄を切り崩すしかありません。介護が長期化すると、よっほどの金額の貯蓄がない限り経済的に困窮し、生活は破綻してしまいます。
確かに、仕事を辞めても、親が健在の間は、親の「年金」や、親や自分の貯蓄とで生活が成り立つかもしれません。しかし、介護していた親が亡くなれば、「年金」も入ってこなくなります。無職のままでは生活が成り立たず、再就職を決め就職先を探しても、働いていなかった期間が長ければ長いほど、前職と同じ条件で再雇用される可能性は低くなるのが現実です。
仕事を辞めた後、収入を得る方法として「フリーランス」で働くという選択肢はあります。時間や場所に縛られずに仕事ができ、スケジュールの融通もつけやすいため、介護には向いているかもしれません。しかし、それまでずっと「被雇用者」として働いていた人が、「フリーランス」に転向した直後から、簡単に収入に繋がるとは考えられません。誰かのためではなく、自分のために自由に働けるようになりますが、収入は全て自分次第。営業、経理、総務、広報など、すべての役割を背負うのも自分だけです。もちろん、「職場」の上司や同僚という、困った時の相談相手は存在しません。
介護を始める前から「フリーランス」で働いている場合は、一見、楽に介護を始めることができそうです。時間の融通がつけやすいため、仕事を完全に辞める必要はありません。例えば、親がデイサービスに行っている間に仕事をすればいいのです。ただし、親の身の回りの世話の他に、買い物や炊事・洗濯から、その他の家事全般や雑用など、しなければならないことは山ほどあります。これらに費やす時間が増えることで、確実に仕事に使える時間は減り、収入は減少します。また、やれ、お手洗いに行きたい、喉が渇いたなどと、夜中に何度も起こされれば、介護する側の睡眠時間も減ってしまいます。それが毎晩続けば、慢性的な睡眠不足のため、仕事の効率は明らかに低下します。
まさに私は、この「フリーランス」の「罠」にはまってしまったのです。私の場合は、年に数回、日本に一時帰国し、普段、母の面倒を見ている家族を手伝いに行くという、言わば「短期集中型の遠距離介護」でした。多くは仕事がらみの目的に合わせて、格安の航空券を購入し、数ヶ月単位で帰国していました。当初は、受ける仕事の量は減っても、仕事をしながら介護の手伝いができると高を括っていました。ところが、日常生活に関わる事の他に、私が手伝えそうな、普段は手が回らない事が思いの外多く、2度目からは、日本にいる間、仕事をすることは諦めました。1年の三分の一ほどは収入がなく、旅費や滞在期間中の生活費など、その期間が長くなるほど、支出が嵩んでいきました。
介護の準備、できていますか?
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*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。
ガーリック康子 プロフィール
本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。