~グランマのひとりごと~
アレー これ何だろう? 見慣れない「ノボリアイ」。PCを開けて最初のページ、それは挨拶状でした。
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日本の留学生です。3月12日からお世話になります。
すみこさん
はじめまして。漢字が分からず平仮名のまま失礼いたしました。日本人留学生の野堀真衣と申します。
「マイルストーンカナダ」さんに手配していただき、3月12日からお世話になります。ギリギリになってしまいましたが、受け入れてくださり誠にありがとうございます。
空港には朝の9時半に到着予定なのですが、その後手続きを済ませたらそちらに向かわせていただきます。
そちらで1ヶ月ほどお世話になる上で、日本から持ってきた方が良いものなどございますでしょうか? ご自宅に備えていないものなど、もしございましたらお教えくださいませ。
何卒宜しくお願い致します。会える日を楽しみにしております。
野堀
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野堀さんはメイルのとおり、留学先バンク―バーで泊まる所が見つからず、マイルストーンの依頼でグランマの所へ来たのです。
メイルにあるこの「マイルストーン」という会社はご記憶の人もいるでしょう。2018年にバンクーバーで殺害された留学生、古川夏好ちゃんの留学エージェントです。当時、彼らは寝る時間を割いて、夜中にビラを皆でコピーし、朝にはビラを配り、必死で夏好ちゃんを探した、心あるエージェントです。
行方不明のナツミちゃん探しに、頑張った優しいボランティア数人は、今はこのグランマの友人になっているのです。
そのマイルストーンから、今回、留学生の下宿が緊急で必要だと、グランマ宅に一カ月間の下宿人受け入れ依頼がありました。
何故って? 実はあの夏好ちゃんは2018年、下宿屋グランマの所に、下宿探しでやって来た留学生だったのです。家の下見後、グランマの家は交通が不便だと不入居、でも、そこで出会ったグランマとナツミちゃんは色々本の話を始め、この2人、すっかり仲良くなったのです。
当時、既にバンクーバー新報に掲載されていた「老婆のひとりごと」の愛読者にもなりコメントもくれました。我が家の食事会や、サンルームでの月下美人の鑑賞会とか、何かあると淋しい老婆に会いに来てくれたのです。
ところが、8月末から来なくなり、夏好ちゃんどうしたのかなぁ?
やがて、9月初旬、「日本人留学生行方不明」ニュースがテレビで報道された。写真の顔はグランマの知っている「フルカワNatsumi」に似ているけど、名前が違う。『コガワ古川夏好』と書いてある。「でもよく似ているなぁ」と思っていた。
そして、9月中旬、大妻女子大学、社会学教授、チャンヨンへ先生から、『今、テレビで行方不明報道中の留学生は、私達が澄子さん宅のすしパーティーでご一緒だった「コガワ(古川)ナツミ(夏好)」ちゃんだから、しっかり調べなさい』と連絡が入り、初めて「古川夏好・コガワナツミ」と「natsumiフルカワ」が同人物だと分かったのです。
あの事件から今年は5年目です。当時、犯人の疑いをかけられた人が、今は元気で仕事に励んでいます。夏好ちゃんの元ボーイフレンドは、昨年、日本で結婚。今年、男子が生まれました。会った事もない夏好ちゃんの為に、同じ青森県出身だからとビラ配りをやってくれた、朋子さんは、今このグランマにとって、なくてはならない大切なブックキーパーです。
あの時、あらゆる情報を日本在住の夏好ちゃん家族へ、夜中でも送り続けた日本領事館のスタッフ達がおりました。もう帰国されたと聞いています。そして、思い出すのは岡井朝子前総領事です。夏好ちゃんの母恵美子さんがご挨拶に領事館へ上がった時、事件後1年半経っていました。しかし、そこで、総領事は涙をぬぐいながら、恵美子さんと1年前に書かれた「老婆の独り言」フルカワとコガワの話をされていていたのです。
今も、裁判は続けられ、毎回、領事館から係員が何らかの形で、出席され、その時々の裁判経過を、皆に報告して下さいます。又、毎年9月の法要は遺体発見場所で、バンクーバー仏教会の青木龍也住職、多田雅代首席領事はじめ、必ず領事館の方、日大同窓会の久保克己氏もいらして、行っています。本当に、夏好ちゃんの霊はバンクーバーの心ある人達に守られているようです。
3月12日に日本からやってきた「ノボリマイ」ちゃんは今、4,880Sqft、7寝室、5浴室、1プレイルーム、1日本間、サウナ、ジャグジー、緑がいっぱいのサンルーム、でも広ーいボロ家で、グランマとその息子、3人で一緒。でも彼女は交通不便な通学生活が始まっています。 やがて来月は、次の下宿先に越していくでしょう。
この世の出会いはすべて「必然」。ノボリマイちゃん、きっと私達きっとどこかで、天にいる夏好ちゃんに守られているのですよね。心の財産になる、豊かな留学経験を積んで帰国出来る様、頑張ってね。
あっ、今14:30分。マイちゃんが帰ってきました。
「お帰りなさい!今日は早いね」
許 澄子