今回は、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員である、リサイクルショップの店長からいただいたご報告をご紹介しよう。冷蔵庫の買い取りと販売における実践と気づきだ。
彼いわく、中古品を買い取り次のお客さんへと販売する自分たちの仕事において、常に意識していることは、買い取った品がいかに新品に近い形で販売できるかということ。そこに注力することで、売れ行きも売れる価格も変わる。そのため、「スタッフは日々のメンテナンスに力を注ぎつつ『どうすればきれいに見えるか?』を考えながら作業に取り組んでいます」とのこと。
そんなある日、冷蔵庫の持ち込み買い取りがあった。状態も良く、「きれいだな」と感じる品物だったが、特にそう感じたのは、卵トレイや製氷皿などの付属品が、ビニール袋に入ったままの状態だったことだ。結果、彼も状態良好と判断し、高額で買い取りした。
その時ふと気づいたのは次のことだ。「うちで売っている冷蔵庫、付属品むき出しじゃない?」。
それからあわてて付属品をビニール袋に詰め直して販売。そうしたところ、今までより一層「おたくの商品きれいだね」との声もいただけ、販売台数も、前月と比較して3割近く上がった。
そして何より顕著だったのは売上だ。いきなり前月比で2倍以上になったのである。
台数以上に売上が伸びたのは単価が上がったからだ。それはすなわち、「より高く売れた」ということであり、お客さんがその価格で妥当だと評価した結果だ。報告書には今回の取り組みを行う前と後の写真も添付されていたが、実際、同じ冷蔵庫なのに改善後の方が新品に近く感じる。お客さんがそう「感じる」ことで、今回実際、売価を上げることができたのだが、これは「価格」というものの本質を物語っている。
世の中では「価格」を絶対的なものと考える風潮があるし、売価も原価から考え設定することが通例だ。しかしそれは本質的ではない。今回の例のように、「価格」とは買う側がどう「感じる」かに連動するあやふやなものなのである。
また今回の実践では、店長が自ら高額で買い取った冷蔵庫からの気づきを早速販売に活かしたことも学ぶべき点だ。自分が思わず高く買い取った、その要因をすぐに自己分析し、ならばお客さんも同じではないかと活かす。こうしたことが機敏にできるようになれば、おのずと好業績となっていくのである。
小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール
山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。
2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。
「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は最新刊『「顧客消滅」時代のマーケティング』をはじめ、新書・⽂庫化・海外出版含め40冊。
九州⼤学非常勤講師、⽇本感性⼯学会理事。