日系コミュニティ、日本・世界にとってのカナダ、ウクライナ情勢などについて紹介した前編に続き、5月3日に着任した在カナダ日本国大使館山野内勘二特命全権大使インタビュー後編はカナダのメアリー・サイモン総督への信任状捧呈時のエピソードや、カナダ全国を網羅する日系団体創設構想、さらにカナダ愛が炸裂する趣味の音楽について紹介。
6月26、27日にブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーを訪問した山野内大使に、在バンクーバー日本国総領事館で26日に話を聞いた。
先住民族との関係、大切なのは対話
山野内大使は6月7日、メアリー・サイモン総督への信任状捧呈式に出席。カナダ史上初めての先住民族出身総督と式で交わした言葉が印象に残っているという。
この日は出席した7人の大使に、サイモン総督がスピーチをした。そのスピーチの中の最後に、「約束とかあきらめない気持ち」を表す言葉を自身の先住民族の言語で言ったという。「その言葉をいまは思い出せないんだけど」と笑ったが「その言葉をメモして、『この言葉に感銘を受けました』って言ったらすごく喜んでくれて。『自分のことばをそうやって言ってくれたのはあなたが初めてだ』と」。そのときに互いを知るための「対話が大切なんだなと思いました」。
同じような経験がもう一つあったという。6月にケベック州ガティノーのカナダ歴史博物館を訪問したときに、ある先住民族の首長がスピーチをした。6月はカナダ先住民族歴史月間(National Indigenous History Month)。その首長にスピーチのあと話かけると「すごく喜んでくれて。やっぱり対話をしていくというのは大切だなとそこでも思いました」と語った。
日本と先住民族との直接の関係では、現在BC州で進んでいる「LNGカナダ」(日本ほか数カ国がかかわる)プロジェクトがある。液化天然ガスをBC州からアジアへ輸出する一大事業で、BC内陸部の産地からパイプラインを敷き、最終的には州北西部の港キティマットから積み出す。パイプラインは先住民族の土地を通り、港周辺にも先住民族が多い。
山野内大使は、先住民族との「和解」はカナダ国内のカナダ政府が努力していく政策としながらも、「友好国日本としては、それを見守りつつ、我々としてやれることはやっていく」とし、LNGカナダのような産業が興ることで先住民族コミュニティに雇用が生まれ、社会に貢献できるような「彼らをリスペクトしていく良い循環ができたらいいと思います」と語った。
カナダ全国を網羅する日系団体創設構想と日本メディア招致を目指す
カナダでやりたいことを聞くと、カナダ全体で日系コミュニティの「横の連携を強めていくことができたらすばらしいだろうなって」との答えが返ってきた。「たとえば、永住権を持っている、短期的に滞在している日本の人とか、カナダ国籍で日本の先祖を持った人たちとか、JETのAlumniとか、日本とは縁もゆかりもないけど日本が好きな人とか、色々な団体なり、個人なりが、日本とかかわっているという一点においてつながれる団体みたいなのがあればいいのかなと思います」
カナダで日本のことと言えば「この団体」という全カナダを連携する団体を作り、登録できるシステムを作る。
アメリカには、50州に約34の日米協会などがあり、それぞれ独立しているが、それを連合する団体がワシントンにあり横の連携をしているという。
オタワから見ると日本は遠いと感じている。「ここ(バンクーバー)は太平洋を渡るとすぐだけど、(カナダの)大きな都市3つ、オタワ、トロント、モントリオールは全部、東にあるんですよね」。だから意識的な努力をしなければと実感する。「日本が憎いというカナダ人はあまりいないと思うし、尊敬を持ってくれているけど、だからこそ当然視していて。すごく良い関係で重要な国という意識はあるけど、それをもっと『ビジブル』にしていく、そういう努力は必要だろうと思っています」
『ビジブル(はっきりとわかる形)』にするという意味では、日本メディアの支局がカナダに必要とも感じている。「人(ジャーナリスト)がいないから(カナダの)ニュースが(日本に)ないんですよ」と言う。「ニューヨークなんて、これがニュースなの?みたいなのがニュースになるわけですよ」と笑う。
「アメリカには、ニューヨークにあって、ワシントン、ロサンゼルス、ヒューストン、さらにシカゴにもある。なのになぜカナダにいないのか」。そのうちの1人くらいカナダにいてもいいのではないかと力を込める。お互いにとって大事な国だから、そのニュースが出るようにしておく方法がほしいと話す。日本メディアの支局は、日本とカナダの関係が大切だと認識される一つの「エビデンス」になると考えている。
「カナダの重要性がすごく上がってきている感じがする」と山野内大使。「ジャーナリストも、外交官も、カナダと日本のブリッジになるわけだから、カナダのことを日本に伝える、日本のことをカナダに伝える、伝える方法として支局がカナダにできるのを期待したい」と語った。
カナダ愛、音楽愛が炸裂する音楽エッセイを新報読者に
「趣味は?」と質問する前に音楽の話が始まった。「カナダには、結構いい音楽があるんですよ。オスカー・ピーターソンとか、ラッシュとかね。『バンクーバー』って曲もあるんですよ」と言って、自身のスマホで「バンクーバー」(Superfly)を流し始めた。「音楽でも、カナダと日本にはいい話がいっぱいあるんですよ」と、もう止まらない。
CDは8,000枚以上、LPも約2,000枚持っているという。「ハードディスクに全部入れて行ったんですけど、ニューヨークに赴任してニューヨークでまた買って。何十箱か送って、そういうのの繰り返しで」。聞くだけではなく、ピアノも、ギターも弾くという。
「病気なんですよね」と笑う。病気までとは言わなくても、確かに趣味の域は超えている。そんなこんなで「バンクーバー」が流れる中、「音楽エッセイ書きますよ。月1回でどうですか?」とオファーをもらい、トントン拍子に話が決まった。
「なにか貢献したいと思うわけですよ。バンクーバー新報の読者に」。オンラインで配信しているため、バンクーバーだけでなく、カナダ全国、そして日本の読者にも、カナダ音楽のすばらしさを紹介できるとの配慮だった。
というわけで、在カナダ日本国大使館山野内勘二特命全権大使によるカナダ音楽のエッセイが始まった。掲載は毎月第3木曜日。第1回はすでに掲載している。音楽で結ぶ日本とカナダのエッセイに乞うご期待。
そして最後に読者に「日本とカナダの友好親善を皆さんで盛り上げていきましょう。皆さんが好きなことをすることが、日本とカナダの友好につながると思うので、どんどん好きなことをなさってください」とメッセージを送った。
山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身
(取材 三島直美)
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