第9回 助けられた命

 母が1999年3月2日に、翌年、2000年1月11日に、夫が他界。淋しかったぁー。そして、2001年7月、サンフランシスコの長女を訪間中、私は脳卒中で倒れ入院した。そこは有名大学の付属病院だが、それはひどい病院とスタッフだった。
 保険が無いのを理由に、利益のために見え見え、いいように取り扱い、5日間の入院中に6回のMRIとあらゆる不必要な検査を行った。5日間の入院費がアパート1軒分となった。
 それだけでない、ブラッドシンナー薬(blood thinnerとは 血液の抗凝結[こうぎょうけつ]薬)を4人のインターン医師が付いていて、それぞれに調合し、毎日それを飲まされた。私は何なのか知らなかったが後で分かったことなのだ。その他に、薬だけでない。同じくブラッドシンナーの点滴も行っていた。その上に、注射器も手渡され、毎日自分で注射するように言われた。
 お腹に毎日注射するのだ。入院3日目から、お腹が痛くなり始めたが、医者とインターン生達は「問題ない」と言った。6日目に大学病院を退院し、娘の引率でバンクーバへ戻った。娘は私を家に送り、直ぐにサンフランシスコへ戻っていった。

 自分が帰宅したその夜、左足付けの所がバサッと言う感じで、その後に激痛がきた。911を呼び、リッチモンド総合病院(RGH)へ入院。救急車の乗務員は、私が脳卒中で今日、退院した病人だと言う事で、直ぐにブラッドシンナーの点滴を救急車中に始めていた。RGHに入院し、ここでも続けてブラッドシンナーの点滴を続けた。身体の激痛は全身で、どう表現のしようもなかった。RGHは、丁度「看護婦のストライキ」中で、酷い人手不足でもあった。
 病院でやってくれたのはブラッドシンナーの点滴だけ。やがて、入院十数時間後、意識が朦朧としてきた。その時、担当医の転任があり、薄紫色のターバンを巻いた若いインド人の医者が、「今から自分が担当になる」と挨拶に来た。僅か数分の挨拶で、彼は居なくなった。だが、数分で又彼は戻り、貴方の病状は今危険で、このRGHではCan’t help、今直ぐにVGH(バンクーバー総合病院)へ移すと言った。
 後で知ったのだが、彼はその数分間にサンフランシスコの娘とも話してくれていたそうだ。
 兎に角、既に痛みで意識朦朧(もうろう)の私は、また911救急車で「VGH」に運ばれて行った。

以下、車中の看護師の係員と911の運転手の会話

係員(看護師)運転手に向かって「兎に角、20分の命と言われているから、何分でVGHへ行けますか?」
運転手(女性):もし、サイレン鳴らしてよければ19分で行ったことがあります。
係員:(私に向かって)サイレン鳴らしていいですか?
私:OKです。もう意識が朦朧としていて分かりません。

 車はサイレンを鳴らし走る。その間、看護師が運転手にブラッドシンナーで体内出血患者に13時間点滴を続けていた事。新担当医になって、直ぐにブラッドシンナー点滴を中止、ビタミンBの点滴に変えたことを話していた。
 ここで分かっているのは完全な「医療ミス」、つまり「ブラッドシンナーのオーバードース」なのだった。
 「オーバードーズ(Overdose)」とは、薬を使うときの一回あたりの用量(dose)が過剰である(over)こと、または薬物の過剰摂取に及ぶ行為のことを言う。

 VGHに到着、緊急病棟に入る頃はもう意識が無かった。その後、病室で目が覚めるまでの記憶はない。しかし、目が覚め、10人近いドクターとインターン生がぞろぞろと部屋に入ってきて、担当医が「もう大丈夫です。でも、開腹手術はしません」と言った。

 目が覚めたばかりの自分には、脳卒中の病気なのに何故「開腹手術」が必要ないか分かりません。自分の病状を把握できていないからです。結局、後で分かったのは、ブラッドシンナーのオーバードースで出血が続き、お腹に大きな血の塊が出来たのです。その血の塊は「新生児大」となり、当時、妊娠8ケ月の次女のお腹より私のお腹は大きくなっていました。その血の塊を回復手術で摘出しないと言う事だったのです。

 あのねぇ、「セレンディピティ」幸運をつかむ ああ、幸運をつかむ! 「ターバンを巻いた医者」あと20分でこの世を去る、私の命を助けて下さった。
 そして、そのターバンの医者、退院後誰に聞いても知らにと言うの。彼、サイババかな?

セレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである。

許 澄子
2016年からバンクーバー新報紙でコラム「老婆のひとりごと」を執筆。2020年7月から2022年12月まで、当サイトで「グランマのひとりごと」として、コラムを継続。2023年1月より「『セレンディピティ』幸運をつかむ」を執筆中。
「グランマのひとりごと」はこちらからすべてご覧いただけます。https://www.japancanadatoday.ca/category/column/senior-lady/